勇者と遠征軍 6
夢は醒めず、何処までも続くよ――小間使いな、あたし。
もう悲しみの境遇もどこか遠くの空へ行きました。
あたしの神さまの影の薄い事。
信仰者は、いまのところ...あたしだけだ。
この世界におけるヒエラルキーの厳しさ。
「うん、君だけでも居て助かってるよ」
ちょっと涙目だ。
持ってたお膳を神さまに。
「これ、あそこの金ぴかに?!」
「いいんですよ、一つくらい。だってもう食べきれないほどに、膳が並んでるじゃないですか」
あたしは知らなかったんだけど。
神さまにも“性格”と言う名の“神格”っていうものがあると。
これが...
乙女神の方は、この世のすべての膳は自分の目の前に集める主義なのだという。
...で。ここからがマジ、ヤバいんだけど......自らのお気に入りの柱に、膳の上にある供物を分け与える主義だった。
あああ、面倒な性格してるよ、まったく。
あたしの神さまが御膳もって食してる。
いあ、あたしから膳を貰って談笑しているのが気に食わなかった。
「ちょっとそこのまな板?!」
またか。
ため息も、嫌々だったのも雛壇上から見えていた。
ここは夢の中。
あたしが見ている夢の中なのに――雷が落ちた。
地響きも凄い音だった。
これ、深い夢の中のあたしの知らない事だけど。
その夜に起きた出来事で。
水上都市から少し離れた、メガ・ラニア公国の関所街方面――凄まじい勢いで落雷が降ってきたとのことで、唯一の街道と、その城壁が吹き飛ばされたのだという。兎に角、今は復旧工事でひと月は、通行止めになるとか。
恐らくは、乙女神の癇癪によるものだろう。
あたしはその雷を数センチ横で躱してた。
腕を引いてくれたのは、守護神さまだ。
ありがとう、神さま~
乙女神の表情は怖いまま。
後光が眩しくて、なんとなく癇に障ってるんじゃないかあって。
そんな気がするんだけど。
「えっと、殺す気で?」
「信心深いというから、あたしの宮殿にて小間使いとしてアルバイトを赦したのよ。それが何? 収穫祭の主役を放り出して...まな板は、あたしではなく自分の守護神に媚びを売るって訳」
どうも感情が昂ると、一人称が変わる傾向の神のよう。
乙女神の素性は古いものだと、部族長の娘が身を挺して後、勇気が認められて天界に召されたというのが転じたと聞く。その時のエピソードは追加されて、何が本物かは分からないけれども。
人間らしく嫉妬する点は、古い素性によるものだろう。
で、だ。
「この子は無理に繋げられた、だけだろ?」
守護神スーリヤさまの広い背中が、あたしの目の前にある。
この世界では信者が少ないから、御力のひとつも碌に振るえない制約があるというのに。
あたしを庇って。
乙女神の神通力で、張り倒された。
ひ、酷い!!
「な?!」
「力の差、分かってないのお爺ちゃん???」
煌びやかな扇を開いて口元を隠す乙女神。
うーん、どんどん信心が薄れてくなあ。
「ええ! まな板からあたしへの憎悪を感じるわ。...神にその態度は良くないって、分かっていないようだけど? 長命種だからって死なない自信とか、まさか奢って...いないわよね?」
えっと、それは。
何??