勇者と遠征軍 3
じゃあ、当事者たちを見てみよう。
例の中年勇者と皇帝陛下の一群。
三の王女に支えられる勇者は、おしどり夫婦のように。
その光景が皇帝を悩ませる。
「王女がー!!」
宿屋の柱に激震が。
民間の施設は壊さんでくれよ、陛下。
「今日も荒れてるな」
酒瓶を抱えるお爺ちゃん。
もう、切り替えた。
三の王女は娘みたいなものだけども、あたしが爺ちゃんにはある。
中年勇者の毒牙が王女に向けられたのなら。
ハーレムなんて大層な野望が無ければ、あたしにその毒牙が届かなければ。
爺ちゃん的にはそれで良しと、決めることが出来た。
彼なりの精神衛生上のなんとかって奴だ。
さてと。
「王女と勇者は?」
爺ちゃんがの注ぐ盃が、皇帝の手に渡る。
指の腹に酒が当たる。
「ぐっと、飲み干せ」
「言われるまでもない!!!」
煽った直後に咽た。
喉が灼けるような強さと、辛さ。
「横耳長族特性の酒だ。ま、自棄酒したいとき呑む...特別なもんだが? 人間のお前さんには、少しキツかったかな」
微笑んでるだけなのに。
皇帝の癇に障ったようで――『構わん、もっと注げ』と剛毅に応えた。
灼けるような強さに慣れることは無いんだけど。
「吞め、呑め」
「勇者は、教会の連中と別の宿に居る」
ようやく吐露した。
三の王女が教会側にあるので、必然的にそういう力関係に。
皇帝派か教会派か。
ざっくりすると、この二派閥で帝国が回っている。
「すでに、帝国の政務全般は嫡男が爵号に『王』を得ている。この図式が覆ることはない」
皇帝は気苦労が多い。
三の王女が持つ継承権はかなり遠い。
末の姫だったヒルダと比較しても、だ。
これは娘を産んだ母の家格の問題。
貴族社会ってのはここら辺が煩い構図なんだよね。
「ほう、お主は教会派がそういう事をすると?」
爺ちゃんだって政治をすることがある。
勇者の存在は、教会の世迷言を顕現させる者であるから。
政治的にも強い結びつきになる。
だって、彼らは“神”の計らいによって召喚されたのだから。
神を否定できなくなる。
人よりも大きな力を持つ者の存在を実感できるわけだ。
「継承権の意味は薄くなるだろうな。戴冠式に法皇から、王冠を頂くスタイルへ変更した時点から。恐らくはこの事態を招く事もあるだろうと、先のいや、もっと先の代の王が気付くべきだった。ふふふ」
嘲笑。
「今の嫡男と、ふたりの皇子たちをどうこうは出来まい。だが、その後はどうだ? 俺の孫にまだ小さな皇子たち。末姫の継承権は凍結したままだが...」
ヒルダのは破棄されてないんだ。
爺ちゃんも目を丸くしてて、
「嬢ちゃんは」
「ああ、あれの母親は大叔父の孫娘だったからな。正室よりも格が上って事もあって...大叔父が絡んで厄介でな、保留。保留だよ、本人は皇籍から離れて嬉しそうではあったが」
末姫なのに男子の継承権に割り込むとは、流石です。
教会派が本当に邪魔なのは、嫡男の下に子が出来る事だろう。
ドーセット帝国では、男子・女子に限らず王位の継承が可能ってこと。
妻を娶る事もハードルが高く、子が生まれれば。
「政治の範囲を超えとるな?!」
「だが、ヤらんとも言えぬ。魔神討伐は教会の意向なのだからな」
帝国の総意ではない。
実務に苦心している皇太子いや、今は王を名乗る方が、出兵費用で頭を悩ましてた。
各大臣からも、収入低下を憂いてた。
魔物退治だから仕方ないんだけど。
「国外の要請まで聞いてやる必要もない、か」
「ああ、そう。それだよ」