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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
232/512

勇者と遠征軍 1

 中年勇者はどの町でも、村でも、王国でもとにかく()()()()された。

 その裏で密かに事務処理にて、正なり否なりと選り分ける者たちのことは表に出ない。

 そういうものだけど。

 皇帝が再び切れかかった。



 ここは、ドーセット帝国の南の玄関口“カプル”貿易港。

 日中はおよそ50度に達する陽の暑さが有名で、夜になるとマイナス20度まで下がる極寒の地。

 寒暖差が激しいのは、緑豊かな土地の少なさ故。

 カプル港から内陸へのオアシスまでは、12日先にある。

 それまでの景色は、まあ。

 砂か荒地か、地獄の針山のような荒野だ。


 兎に角、な~んにもない。

 水筒の中身は十全に。

 水だと思って蜃気楼に誘われて、行方不明になった者たちは数知れず。

 盗賊、追剥、もうね人らしい者はいないから。

 みんな遭難したくないから。




 だって。

 この大荒野には魔獣がいるんだ。

 勇者も回避したヤバイやつ。

『倒せませんか?』ああ、心優しい勇者は精悍な脂っこい顔で問うた。

 倒してくれたら、皆、喜んではくれただろう。

 が、教会は断固拒否を貫く。

『なぜです』さっきから腰を労わる勇者。

 威勢はいいんだ。

 勇者として、神の御言葉の体現者としての立ち振る舞いは完璧だ。

 召喚に協力してくれた神も鼻が高いだろう。


 だが、世界には世界の理と言う()()がある。

 無視することなかれ。

『あれは見る者にとっては“聖獣”でもある。カプルから東に18日に関所として開かれた街がある。西には8日の漁村だが、ここもただ一本道の街道のみがあって、周りに遮る岩も...まして休憩小屋めいたものもない。ただあるのは聖域としての祠のみ』

 教会が施したやや不完全な結界である。

 この地での不完全さは、魔獣があるからだ。

 その獣と契約をして安全の確保にこぎつけたもの。

『あ、れ?』瞬きが多い。


『荒野でアレを探すのは難であろう。だが、教会としては契約者であるから...手伝う事は出来ない。聖女様いえ、三の王女様との同行も認められないですな...彼女は今、我らが教会の庇護下にありますから』これは建前――皇帝の意を汲んで、勇者と王女の引き剥がしが行われた訳。

 で。

『あ、うん。俺は持病持ちだったな』

 あっさりやめたという。

 吟遊詩人たちのうたは見事だ。

 こんな些細な密談も、美談に変えてしまうのだから。

 あらましとしては――



 ヒルダさんの美声が食堂に響く。

 教養もそこそこに身に着けた、()王女さまだけの事はある。

「――荒野の都“カプル”で起きた、悲恋の物語でございました」

 魔獣となった男と、乙女神によるラブストーリーが裏にあったという流れ。

 全部脚色された、想像の話なので。

 勇者の神聖性なんて微塵にもないんだけど~


 勇者が何かしたみたいな、流れになってた。

「いいんだよ、吟遊詩人のはそれで」

 師匠も、この詩は好きらしい。

「しかし、聖獣か魔獣とは?」

 シグルドさんの気掛かりは()()らしい。

 噂、伝承、さまざまあるけど。

 あたしの御使いたちが口の葉に乗せたもんを言葉にすれば。

 荒野に置き去りにされた、竜なんじゃないかってことらしい。


 手に負えなくなったから廃棄したっていう、神があるなら。

 この後始末もなんとかして欲しいところ。

「だけどよ、教会が()()つけられたってことは、知性は俺ら以上じゃねえか」

 お、これは。

 あたしの目が光ってたようだ。

「バカ弟子は勘定に入ってねえ!!」

 えええ?!

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