勇者の覇業 20
「当方が?!」
小首を傾げられた。
任務に失敗したので、やけ食いなのかと問うたのだけど。
「はっ」
鼻で嗤われて。
鼻紙に“ちーん”って噴かれた。
「当方、そんなにもやしっ子に見えますか? いやいや、ありえないっす。そもそも未だ任務についても居ないですし、当方、異端審問官であって外交のスぺシャリトって訳じゃあありません」
まあ、まあ...ごもっとも。
あたしたちの居た街では、その職業も知らなかったんだが。
単なる出張の多い修道女だと思ってた。
「先輩は昔からポンコツでしたもんね」
ここは、ミロムさんとヒルダさんが、納得したように頷いた。
おいおい。
ポンコツは言い過ぎでしょ。
そこは、もっとオブラートに包んで。
「トンコツ?!」
師匠が変な声を挙げると、
店の奥から大将が――「へい注文いただきやしたー!!!」てな絶妙なタイミングで、繋がっていく。
あれよあれよって流れて。
あたしたちと、師匠らの卓上に背脂コテコテのとんこつ料理が並んだ。
「ちょ、これ」
「当店自慢の“ドラゴン・ラーメン”ですよ」
ラーメンってのはここいらの方言みたいなもん。
原料は煉った小麦粉を油で素揚げして。
表面がカリカリになった、パンみたいな円盤から短冊に切り出す。
豚の骨と野菜に、あとなんとかっていう香辛料が入って――
「ローストした、ドラゴン肉が最高です!!」
淡白な肉は鶏肉のようだと評される。
どろっとしたスープは豚の背脂に起因するんだが。
「ど、ドラゴン?」
あたしの脳裏にあるのは、どっかのダンジョンでひと目見たトカゲの王さま。
あたしが目撃したんじゃなく。
散歩中のドラゴンが、鼻歌交じりの上機嫌だったあたしを目撃したんだ。
ひと睨みでちびったね。
で、彼は言ったんだ。
「お前は、子が産める年齢か?」って。
いやあ。
無茶振りされたねえ。
ダンジョン通いはエルフ人生で12歳から。
んと、今よりも見た目はめっちゃガキだ。
そんなお子様を捕まえて~
「お前は...」
ムリムリ。
産めるわけがない。
卵は食えても、あたしと同じ大きさの卵なんて身体が避けちゃうよ。
ドラゴンは威圧感だけを残して、迷宮の奥へ消えていった。
いやあ、怖かった。
「で、えっと...ど、ど、どら、、、」
食堂に通う常連さんからも、笑いが起きてた。
普通にガッツくヒルダさんは兎も角。
後輩も、ミロムさん。
いつの間にか席に付いてたアイヴァーさんらも、ドラゴン肉にした包みを打つ。
「この肉は“ワニ”ですか?!」
◇
「ワニ?!!!」
木から削り出された、二股の先が鋭いフォークで肉を刺す。
くんくん匂いを嗅いでから。
ぱくん...
ああ、脂っこい。
涙目のあたし――自分が四つ足の肉よりも、魚肉が好きな事を忘れてた。
これ、苦手な肉だった。
「だらしがねえなあ」
◆
教会の密偵たちは、結社の“双剣”によって排除されてた。
“双剣”の構成員すべてが燕尾服を身にまとう者たち。
「公国が行動した途端、今までの妨害が急に過激さを増しました」
白手に埃も何もないのだけど、
叩いて払うしぐさを見せた。
国境の街は“関所”も担う。
公国の出入りは北と南の2点のみ。
正教の“密偵”はこの関所の正門ではなく、城壁を超えて侵入してた。
双剣が見上げると、月に照らされた人影が城壁にいくつも。
「大胆、過ぎるでしょう?」