勇者の覇業 18
魔神の痕跡とか伝承なんてのは、大陸の数だけ存在する。
そこから魔神という具体的なフレーズのみに絞ると、候補地が搾れるんだけど。
結社としてその手の伝承に懐疑的なのは、碌なことが無かったという文献から読み取ることが出来る。
秘密結社だけの書庫で、幾らでも検証は可能だし。
或いは世界図書館なんて謳う、中央大陸にあるという巨大樹の都市に行けば。
千年単位の書物に目を通す事が出来るという。
人々が安易に目先に飛びつくのか。
そんな素晴らしい書庫があっても、物理的に遠いから。
もうそれしかない。
「世界図書館ですか?」
和装の男からため息が漏れる。
両の拳を握りわくわくしてたトーンが落ちていくのが分かる。
「だらしのない顔です」
燕尾服の少女は、ティーカップに紅茶を注いでた。
その真後ろに同じ服の女性が立つ。
その視線は厳しく、凛としている。
「義姉さまは、私をじっと見過ぎです」
「作法とは心の在り方です!」
はい...って声が漏れてた。
それぞれの視線がソファにあるマディヤに向けられ、
「この大陸で、ラグナル聖国の膝元だってのは、気に食わないじゃないか!!」
魔神伝承の乏しい大陸に封印された遺物が見つかる。
いや、ラグナルの教義である“女神伝承”の裏付けになると思えば、全くないとは言い難い。
宗教上の物語だと思われてたものが、だ。
実は、歴史的真実の物語だったと。
「偶然か?」
そんな事はどうでもいい。
問題は、隣の大陸にある“中年勇者”が来ることだ。
同時にドーセット帝国の精鋭もセットでついてくる。
「――力任せの帝国式の使い手が集まる。メガ・ラニアの連中も、聖国の連中にいいようにされて...貧しいながらに教会を建立して、支援をアテにしたけども。ついに叶う事は無かったというのだから、恨みは倍増しってとこか」
青年の目は他人事。
愛すべき国が無いのだから猶更かも。
「魔神退治だと言って、封印でも解いてくれて大騒動に成ったら...それはそれで楽しめそうだが。結社の目的は、人々を管理統制する導く世界の構築――チープな言い方だが、世界征服なんて安い言葉にも置き換えられる...別にただ、壊したいわけじゃない!!!」
それぞれが、それぞれの思惑で頷く。
結社が導く世界の構築。
団主はそう、皆に説いたことがある。
深読みした者はいない。
マディヤという青年が現れるまでは。
◆
ドーセット帝国・大地下墳墓。
ほとんど地下迷宮化している地に女神正教の真実がある。
と、いうか結社と正教の繋がりのようなもの。
煌びやかな法皇衣を纏った、初老の影がランタンの灯りで浮かび上がる。
「ここの掃除はいつやったのだ?!」
口元にはシルク織のハンカチがあり。
どれも贅を凝らした光沢があった。
「勇者召喚をしてやったのに、掃除のできる小坊主、ひとりも寄こさない正教のせいで」
何か悪態でも吐こうかと考えてたようだけども。
黒いローブの影が先に嗤いだしてしまった。
法皇側の供まわりは、一層に不審がっている。
「いや、悪い。悪ぶってみようかと思ったんだが、バカバカしくなった」
肩を竦めているんだけど。
ローブのせいで顔が、いや、表情そのものが見えない。
恐らくは認識阻害の魔法が掛かっているのだろう。
「さあ、跪け! アメジストの団主よ!!!!!」