勇者の覇業 17
勇者たちの日課。
吟遊詩人たちは華々しい戦果を謳う。
小さな戦場でも大袈裟に。
大きな戦は更に大袈裟に。
これは帝国が国益を伴う、いわゆるプロパガンダなのだ。
そのあたりは、中年勇者もしっかり理解してた。
むしろ、プロデュースに関しては他の追従さえも許さない。
と、いうのも。
世界にはいくつかの大陸がある。
世界地図が爺ちゃんとこの執務室にあって、それぞれをざっと教えて貰った。
けど、いくら寿命が長いとは言っても、すべての大陸に赴く勇気はない。
ま。
ミロムさんや後輩が...
「セルコットさんと一緒なら!!」
とかあ~
誘ってくれるというのなら、ふたつ返事で旅に出るだろう。
勿論、旅費は教会で。
いや。
それは後輩が怒るだろうなあ。
「なんで教会らの旅に旅費がでると思ったんですか?!」
なんて食ってかかるか。
いやあ~ 案外、面白いか。
「――で、あれば。布教活動! そう、布教活動という事にしてしまえば。巡礼としての最低限な旅費は工面できると思います。ただ、問題は活動による成果が必要になります...そうですねえ、信者の獲得がまず一番と、小さくてもいいので教会を建てることですね!!!」
う~ん。
それは考えもしなかった。
勇者外交は、魔物退治そのものが教会の意図を組む活動。
小物であろうとも、市民から“害悪”を取り除けた瞬間に布教活動の一端も成立する。
「以後は、ドーセット帝国が国教の女神正教に寄進をお願いします。市民の皆様に女神さまから慈愛と正義の加護が与えられるでしょう」――とか、布教していると聞く。
あたしらにはそんな神がかった奇跡も起こしづらいしなあ。
◇
馬車に揺られるあたしに後輩の視線が向けられる。
服の上から乳首を弄ってたあたしに、だ。
「先輩はどうしたんです? 上の空のようですが...」
ミロムさんは無口。
首を振りながら、あたしの前髪をかき分けて、額を合わせてきた。
おっと...
や、そんなに顔を近づけたら、その...間違いが。
「熱はないみたい」
は?
「バカ弟子は馬車酔いなのだろう」
師匠も腰が痛いだの宣ったクチだが。
積み荷の天幕を敷布に快適な馬車旅としてた。
たく、破くなよ~
「さて...ヒルダのネタもそろそろか?」
師匠の勇者嫌いは、爺ちゃん譲り。
いや、中年勇者にすれ違いざまでしか遭ったことはないけど、三の王女という妹が堕とされたことは根に持っている。
40も越えた中年小太り、慢性腰痛持ちなおっさんから“義兄さん”と呼ばれる屈辱は、皇帝よりも耐え難いらしい。
あたしからみれば、五十歩百歩。
◆
幾日も前にメガ・ラニア公国へ入国してた、マディヤ・ラジコートのご一行様の馬車は、公国の教会の中庭に停車してた。引いてた馬は厩舎に預けられ、少ない手荷物も大聖堂の中にある部屋の中へ。
マディヤらの姿は、司教の応接室にあった。
「“目”は本当に“魔神”を目撃したのか!!!」
とは言っても、封印が施された外見上ただの石像にしか見えない代物だ。
ここから適正な手順で封印が解かれた場合、魔神の制御権は“解いた者”が獲得する。
「バカバカしいな」
マディヤの常識ではなく、結社の持つ情報からの常識で照らすと。
封印を解かせたいがための方便にしか聞こえてこない。
「でも、魅力的じゃあねえすか?」
「魅力的だからこそだ」
そこに“邪悪さ”がある。