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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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勇者の覇業 16

 氷結魔法・氷の監獄――11人の魔女による最上位の拘束魔法。

 本来は、桶一杯分の水で戦士級の暴漢なんかを、凍結させる拘束なんだけど。

 今回のは規模も大きいし、何しろ対象は湖から出てこない。

 水の中に逃げられたら...拘束魔法で閉じ込めるなんてことは、まあ無理。


 それと、賢者による拘束魔法・魔鎖が決まったところ。

 これで縛り上げてれば、地上組の攻撃はとりあえず首とか頭とか、尻尾にも一応通る筈だ。

 ただ、リーズ王国としては複雑な気分。


 お気持ち表明が赦されるなら、

 国王自らが陣から抜け出して、皇帝を張り倒したいところ。

 湖にて保護している“スライム”たちも一緒に、凍結されてたからだ。

 氷の監獄から抜け出せている、個体は幾匹かいて――保護地域を別に用意すれば済む話でもない。

 怒髪天のスライムを除くと、今のところ冷静なのはゼロ。

 みんなドきつい警戒色を発しながら、めっちゃ怒ってた。

 これ、契約してくれるスライムなんて最早...

「おらんじゃろうなあ」

 爺ちゃんが眉を搔いてる。

 対岸で怒鳴り散らしてる王さまに、冷めた目を向けてた。



 さて。

 吟遊詩人の語りは、この戦闘の“あらまし”を謳ってる。

 そんな、ヒルダさんも帝国で謳われてた語りが中心だけど、一部、爺ちゃんの視点も混ざってた。

 あたしも当事者としてその場にいたのだけど...


 ここで、ミロムさんの催眠誘導で。

 勇者の方を見て貰う事にした。

 目端には彼の姿があったんだよ。

 で、なんとなく気にはなってたけど、直視してなかったなあ。

「戦闘中に余所見はいかんぞ!」

 爺ちゃんに額を叩かれた。

 で、まっすぐ“蛟”の方へ視線を向けちゃったんだけど。

 あの時の違和感が。



 中年勇者は、腰を深く落として。

 肩で息継ぎしてた。

 深く、深く、深~く意識を集中しているような。

 そんな息遣い。

 聖女様よりも後方にあって。

 誰彼からも意識が向けられなくなるまで、待つ。

 そんな感じ。


 腰痛なんて無かったようにすっくと立ちあがる。

 なんか準備運動して、

 素振りなんかしてる。

 ここまでが2分くらい経ってる。

 戦いの趨勢を見守り、紅茶をすすり。

 そろそろかなって頃合いに――カッ飛んでった。

 そうそう、ここ。

 あたしたちの意識に刻まれた、勇者の凄まじい威力の兜割。

 技が美しいとか、優美な立ち絵なんてないんだけど。

 それこそ力任せの不格好なひとふり。


 爺ちゃんが剣の師匠なのに。

 相当不器用なのか、天然なのか。

 帝国式も泣くほどの武骨者のソレだった――威力の余波で、奥の森と山まで切ったっぽい。

 山頂が欠けて見えるし。

「いや、あれは元からじゃ...が。儂らの攻撃でも脳震盪がせいぜいじゃった“蛟”の頭が、ぱっくりと割れるとは見事な、剛の剣じゃなあ」

 先生が感心してる。

 他人を褒めることはないけど...特に爺ちゃんの教え子。

 でも、あの準備運動とか。

 そもそもなんで3分なんだろう。


 釈然としないし。

 違和感は残るし、とにかく気持ちが悪い。

 記憶を俯瞰してみてたのに...

 勇者に睨まれた気がした。

 あの違和感は、何?!



「――と、こうして勇者一行は、リーズ王国の竜を倒したのです!!」

 やや偉そうなのは、この語り部を始めたときからずっと。

 ヒルダさん曰く『自慢の姉の~自慢の()()()』なのだとか。

 とうとう、結婚すちゃったんかあの勇者とか思ったが。

「んにゃ、皇帝とうさんの許可が出てないから未だ、保留。国の英雄でもあるんだし、婿入りでもしてもらって、辺境公爵でもやって貰えばいいのにねえ~」

 とか。

 あたしが言うのもアレだけど。

 中年勇者に20代そこそこの娘が盗られる悲しみは計り知れない。

 しかも皇帝よりも年上だという。

「で、その他の冒険譚は?」

 後輩が催促。

 旅は未だつづくのだ。

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