勇者の覇業 14
水辺だから、周囲との温度差はわりとある。
春が近いとは言え、まだまだ冬の香りが残ってた。
リーズ王国の水源地である“ブラック・レイク”も例外ではなく、ところどころに冬の獣たちが爪痕を残してるわけで、そうだなあ...体感で約5度いやいや、7、8度はぐっと腹の底から冷えるような気がした。
かくいう、あたしも鎧の下に腹巻の2枚重ねと、ももひきの多重装甲で武装してる。
不老不死とか思われてる、エルフだって腰から風邪をひく。
下痢が始まったら、そりゃあもう、酷いものだ。
恐らくは見せられたものじゃないだろう。
いや、見たい?
ただ、単に厠と自室を往復するだけの、きったねえ話にしか。
えっと? マジで? 変態さんですか?
◇
ふらりと、爺ちゃんがあたしの傍に来る。
「誰と何をコソコソ会話しとったんじゃ?」
あたしが見てた森の奥へ視線を向ける。
まあ、何もない。
あたしも我に返ると――
「え?!」
なんて霧でも晴れたような声が出てた。
何かに憑依されてたような雰囲気。
この実況は無自覚なの。
気にしないで。
「そろそろ出るぞい!」
その言葉が意味するところは、急激な気温の低下だ。
3000発以上の樽を水中で爆発させた。
それこそ正に、蛇が出るか蛇がでるか。
リーズ王国側は、別の意味で大混乱だ。
七色に警戒色を発するスライムたちの群れ――普段は、大人しく治癒魔法くらいしか使わない、小さな魔物たち。契約が成功すると、戦場で宿主を護る頼もしき相棒となるというスライムとか。
種族名は“スライム・ヒーラー”って職業名も兼ねてるという。
契約者が代替わりしても、忠義を尽くして守るという。
平均寿命は2代半っていうから、結構な相棒感がある。
そんな彼らの住処も、今の樽で吹き飛ばしたわけで。
「先生があっちで怒ってるよ?!」
爺ちゃんにそれとなく、先生の背を指さした。
スライムを説得しに王の陣屋に駆け戻る先生たち。
兄弟子も何人か...
大人げない爺ちゃん。
前髪をかき上げながら、
「陸に揚げたいという要望だったからな」
もう。
しっかし...ぞくぞくすると、する。
鎧の中にまで纏わりつくような。
寒気がある。
「ふん!」
あたしは爺ちゃんの胸に顔を埋めてた。
いや、森側へ2、3歩後方へ飛んだ感じで――湖の主が水面から這い出てきたとこだった。
◆
盃をあおったところで、
語り部のヒルダさんが咽かえってた。
鼻の奥にチーズの欠片が飛び込んで、むちゃくちゃ痛そうだ。
「が、ああああ、ご、ごめん...いた、痛い!!!」
ちーんしなさい。
「「「ちーん、しなさい!!」」」
あたしの心の声を、皆がヒルダさんに伝え。
彼女の背を師匠が叩いてる。
「ぐへ、ぐへ、ぐへ~ それ、兄さまのソレが、痛い!!!」
そりゃ痛かろう。
グーで殴りすぎ。