勇者の覇業 12
集まりだす、兵に王国の徒たち。
だって悲鳴だよ?
何かがあったかもって、みんな心配だってするさ。
何がなくても“蛟”が棲まう地なのだ。
蛇か竜にまつわる眷属が主人の窮地に参上しても可笑しくはないし。
それじゃなくても、何かあると思っても...不思議ではないとか。
ま、それは考え過ぎなんだけど。
あたしは、その頃――。
勇者の天幕に繋がれてた、神輿の傍にあった。
寝ずの番もいいところで。
帝国に遊びに行ったり、爺ちゃんに稽古つけてもらったりで。
何だかんだ3、4年は居たんだ。
エルフ的感覚の時間経過なので、実際はもっと居たかも知んない。
で、その時間の中で知己を得た。
ここに来ると、ヒルダ並みの腐れ縁だといえるんだけど。
これが三の王女のものだってことは知ってる。
その護衛を仰せつかったので...
一部始終、最初から知ってました。
勇者を夜這いしに仕掛けたことも、その行為にお熱になってたことも。
ぜんぶ、ぜ~んぶ知ってました。
◆
帝国風の吟遊語りに興じている、ヒルダさんの調子を狂わせたくはない。
この時、勇者は重い腰痛を抱えながら、奮戦し。
バディである三の王女、聖女を守り切ったという話になっている。
「この“竜殺し”の語りの最初の見せ場はまあ、こんなとこよ!!」
真実を知るあたしは、ミロム吸いで誤魔化す。
身体がプルプル小刻みに震えてたとしても。
勇者の名誉のために――
「しっかし神様もひでえな」
ん?
後輩も「?」を浮かべた。
「腰痛持ちってのは分かってるんなら、せめて五体満足で放逐してやりゃあいいのに、な」
ごもっとも。
そもそも中年男性を送って寄こすなってのもある。
皇帝陛下なんて、後々に自分よりも2歳も年上だと聞かされたのだ。
心痛お察し申し上げる外。
「人には、越えられない壁を与えない...そんなとこでは?」
妹のヒルダさんがそんなことを、言の葉に乗せた。
吟遊詩人語りで「悟り」でも得たんかな。
師匠が困惑してるし。
「あ、いや。腰痛が“壁”ってことも...妹の勇者びいきは今に始まったことじゃねえが。考えてみろ、前衛の疲労感とか、ほら苦労とか...皇帝とロム爺の負担は、滅茶苦茶じゃないか?!!」
シグルドさんは、
「敢えてユニークスキルの枷に利用されてるんじゃないか?」
と、師匠を制してた。
勇者の爆弾は、強すぎるギフトへの縛り効果かもしれないという推察。
神様から直接、問いただしたわけじゃないから分からないけど。
確かに勇者のユニークは、ユニークたらしめる。
3分間の“溜め”時間を盗る必要がある。
この体感的時間は、平時でも有事でも長く感じるので、条件反射的にこっちが枷だと思ってた。
今にして思えば実に現実離れした、ユニークだと思う。
殆ど戦場に参加しないのも不自然だったし。
「ユニークスキル“身体強化”と“腰痛緩和”の何れかが、恐らくぶっ壊れスキルなんだと思われる。だから、常時使わせない様な枷が用意されている...ま、これは思い付きなんだけどな。他にも条件はあるんだろう...」
――不死身の肉体を得る。
これでもぶっ壊れとは言えなくもないけど、勇者は“溜め”の時間を盗っている。
肉体への過度な負荷がかかるものだと考えると。
シグルドさんの推測は。
「ほいじゃ、ブラック・レイクでの語りに戻すかなあ」
ヒルダさんが一息つけた模様。
そろそろ昼にも掛かりそうだし、あと数節話したらお弁当だねって会話になってた。




