ちょっと前の、地下闘技場で 3
「ちょっと、後輩ちゃんや?」
前髪を耳へかけ直しながら、後輩があたしを覗き込む。
そんなしおらしい仕草、見たことないんだが?
てか、お前の...
「実況はちょっと心穏やかじゃなかった、みたいですね」
後輩が言うには、身体の機能は停止されてるらしいけど。
その、反応が鈍くなってる訳でも...ないらしい。
馬頭の下僕たちは、神の言語で修道女と交信している。
要は、あたしに内容が伝わらないようにするためだとか。
「ちょっと濡れて」
「わーわーわー!!」
声に出して言葉そのものを物理的に遮った。
聞きたくない、聞きたくない!
濡れた、だと。
それは触るからだろ!!!
「もう、子供だなあ」
「子供だなあ、じゃねえよ! 身体検査で...いや、健康診断で...」
「そりゃ、悪い病気持ちじゃないか調べるでしょ?! それにギルド長さんが蟲とか仕込んでた可能性もない訳じゃありませんし...調査では、嘘の借財を背負わされてただけだと知れてはいますが...これは念のための処置。忙しい神様たちが、診ていってくれてまし、もう少ししたら終わりますよ、今、5人目なのでもうちょっと待っててください」
え?
◆◇◆◇◆◇
ポール君たちは、別の出口から無事脱出に成功してた。
結局、手がかりらしい手がかりは、見つからなかった。
「とは言え、無収穫という訳でもない」
追跡すれば、証拠を抹消するように動くものがある。
時には撹乱し、時には物理的な排除に訴える謎の組織。
「マスター」
「焼き払うだけでなく、埋めなくてはならないほど疎ましいと思われたわけだ。選手の控室に転がってたのは亜人種のようだったが、あの地下闘技場では人族以外の参加は制限されていたはずだ」
白い灰に覆われた弟子たちが各々に頷く。
「個体差が出ないように配慮されていた。亜人種混合にでもなったら、胴元が混乱するし、賭けが成立しないでは意味がないしな。その為に身辺調査は徹底していたはずだが...躯があったことから推測すると“外見変移”の人体実験ではないか?」
亜人種や、他の種族が人族の社会に溶け込む時に用いる“外見変移”。
より人族に近い種族には、無用なスキルなので姿を変えるなら、魔法に頼る必要がある。
「それでも分からんな...」
「と、いうと?」
調査の撤収に取りかかっている中、
「連中の目的だ。姿を変える薬の開発と予想はつく...だが、ならばシェイプシフトできる者を雇えばいい。原材料と同じ姿になる、危ない橋を渡るほどのメリットは何だ?!」
「それは、ここから離れたら考えましょう!」
ポールの腕を引く弟子。
調査員たちも撤収準備が整ったようだ。
「とりま、俺たちを襲ったのは魔法が使えないヤツだと断定できる!」
やや呆れてる弟子たち。
仕事熱心なのは良いのだけどと思う反面。
「今も自由に動けるのは胴元あたりか!」
「だと思います。捕縛できた者の中には、居りませんでしたし」
爆弾で九死に一生を得たポール君にスイッチが入った。
入れたのは、隠蔽する目的で爆弾投げ込んだやつだけど...同情だけする。




