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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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勇者の覇業 8

 王国の北部には豊かな水源がある。

 リーズ王国が周辺の諸豪族を従えて、ドーセット帝国と肩を並べる超国家に至れたのは、この河川と水質の御蔭だと言われてる。豊かな水源の量と質により、森の恵み等を利用しながら拡大していった...とか。

 王国の歴史は長いけど。

 広大な版図を築いたのは近年の話。

 帝国と同じように侵略戦争による賜物だけど、この際は割愛。

 誰かの恨みで“みずち”が放たれた訳じゃないから。


 湖底の化け物は、王国誕生の影の話に出てくるから。


 さて。

 水源をも資源とするリーズ王国の水事業は、リゾート地の開発にも拡がってた。

 水上都市である。

 人工の湖を作って都市が浮かべられたもの。

 上級市民たちの避暑地である。


 戦から遠のいた昨今。

 他国の貴族たちも訪れるロイヤルティな地になったものだけど――「儂の知らぬところで、か」と、皇帝陛下の憤り。リーズ王国の最深部なのだから知らなくても当然だけど、仲間外れ感は確かにあった。

 何せ、武者修行だと言って都を離れてた時期のある勇者が、だ。

「このリゾート都市の魅力は~!」

 なんて、近衛騎士たちに解説している姿を見たからだ。

 思い当たる節は何度かあった。


 今にして思い返せばだけど。

 三の王女が“()()”の避暑地は素晴らしかったとか。

 そんな話をしていた時期がある。

 内政に頭を悩ませてた皇帝の時期も悪かった。

 それだけなんだが。



「解せぬ、解せぬ、解せぬー!!」

 ごわごわのマットを床に叩きつける暴虐の皇帝。

 マットは使用後にそっくりそのまま、回収して焼却処分。

 新しく新調したものと交換してた。

 洗濯して再利用も考えなくはないけど、清潔感とは少し遠くなりそうな時代じじょうがある。

「陛下?」


「ロムジーか。何故だ、金貨1枚の宿にこのサービスは見合っているのか?!」

 皇帝はマットを指さしてる。

 床に叩きつけたら、カバーから中身が出てた。

 藁である。

 これの量を調整すると、横になったときの反発力が変化する。

「もっと詰めますか?!」

 適応力の高いお爺ちゃんがそこに。

 皇帝の目が点になってた。

「陛下は戦場でならどこでも寝れましょう?」


「うむ」

 表情は硬い。

 戦場では無駄にできる物資は無い。

 すべてが貴重品なのだ。


 損失分は現地調達もやぶさかではない。

 が、やり過ぎれば敵を作る。

 そんな綱渡りが、快楽でもあった。

「こうした宿屋はまあ、野宿と比較して価格設定しているんですよ。ひとりで旅をしてると野宿も起こり得りますから、警戒しながら寝るなんてのは難しいものです」

 陣屋には夜警が見回っているから、皇帝も安眠が出来る。

 その安心を金貨換算すると幾らになるのだろう。

「屋根がある、壁がある、冷たい地面ではなくベッドで寝られて、温かい食事をとりあえず食える安心感。これの提供で宿泊費用が金貨1枚...ちょっと安すぎな気がしますが」

 爺ちゃんは、肩を竦めた。

 最盛期の時は金貨10枚の相場である。

 “竜”による営業妨害によって、リゾート地は閑古鳥が鳴いているありさま。


 同国の貴族も、逗留しなくなれば、ますます不安がられる。

 水上都市のそれまでの栄光も。

「で、勇者...殿がなぜ、ここを?」

 お爺ちゃんは苦笑しながら、

「私が御連れしたのですよ。孫娘の様子も確かめたかった...も。勇者殿は酷い腰痛持ちとのこと、この都市の温泉でも入れば...」


「それは怪我の類であろう」

 都市に入る際、観光課という者からパンフを貰ってた。

 見れば、いくつかの温泉があるのが分かる。

 騎士たちの間でも話題になった、秘湯。

 古傷にも効果がるという治癒泉ヒール湯。

「ええ、そうですね」


「あれはダシか」

 深々と首を垂れてた。

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