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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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勇者の覇業 7

 馬車旅は、経費の掛かるものだ。

 これは前にもあったけど。

 自前で馬車を用意すると、馬のケアにも金が掛かる。


 先ずは、厩舎の借用代。

 節約しても銀貨1、2枚はかかる。

 そして、飯代なんだけど。

 銅貨で約10枚ちょっと。

 馬は大食漢なので、わりと多めに用意する。

 喰わなくても、2頭もいればすぐにでも銀貨1枚が飛ぶ。

「おーしおし、いい子だなあ...お前たち」

 馭者のアイヴァーさんは馬にブラッシング中。

 厩舎にある手隙の少年たちを雇えば、2頭のケアは早く終わるけど。

 ま、大事な商売道具なので。

 普通の馭者というのは、愛馬を任せたりはしないもの。

 だから手隙なわけ。

「手伝うけど?」

 少年たちが声を掛けてくる。

 彼らにも生活がある。

「そうだな、ニンジンでも買ってきてくれ」

 邪険に扱うことなく少年たちにそれぞれ、銅貨を託す。

 いや、アイヴァーさんは与えたのだ。


 少年たちは、夕闇の落ちる街の奥へ消えると。

 奥の影からシグルドさんが浮かび上がってきた。

「取り返すか? あれは持ち逃げされたぞ」


「ああ。水を運ばせても同じことが起きてたと思う...こんな時間だ。もう、陽が落ちるのだから帰らせた方が賢明だろ? 銅貨の5~6枚程度じゃ、彼らの親方も無下に奪いはせぬだろう。夕飯のタシ程度にでもなれば、食い繋げられる」

 自己満足かもしれないけどって彼は嗤った。

 自分自身をだ。

 シグルドさんも馬の手入れを手伝った。



 宿屋の下階が食堂と言うのはわりと多い。

 現代のホテル業のようなサービスはない。

 ベッドメイキングとか、或いは宿泊施設の掃除なんてのは入居者がしていた。


 いや、もっと分かり易く解説しよう。


 長期滞在が目的ならば、商人らと同じように“教会”の宿泊施設を利用する。

 身の危険が少なく、なおかつ清潔だからだ。

「これ、なんで藁敷いてるの?」

 あたしたちのパーティには、冒険宿を利用したことのない者がふたりある。

 紅の修道女こと後輩と。

 格闘家の師匠である――やや大声で叫んでたので、驚いたあたしとヒルダさんが師匠の部屋へすっ飛んで行ったとこだ。まるで生娘のような悲鳴だったのが印象深い。

 てか、何事???!

「ちょ、シーツは何処!!!」

 は?

 呆れたヒルダが、自身の兄の外套を藁の上に敷いてた。

「はい、これがシーツ」


「は?」

 驚いてるのが分かる。

 あたしも冒険者に登録した頃は、世間知らずの令嬢エルフとか馬鹿にされたもんだよ。

 家持ちなら藁の上で寝ることは、まあ無いもんだよ。

 古着のいくつかを何枚か重ねて板上に履かせ、シーツや毛皮、掛布団か何かで被って寝たものだ。

 それが普通だと思ってた時期があった。


 でも、それは普通ではなく特別だったんだ。

「おいおい何の冗談だ!! 俺の外套を...」


「いいえ、兄上おにいさまの常識を崩させてもらいます。これが庶民の...冒険者宿の実情なんですよ?」

 妹に諭させられる兄。

 師匠の事だから、口八丁手八丁のお調子で。

 貴族だの豪商だの或いは、()()()()博打で誑かして、他人の家に転がり込んで快適な睡眠を欲しい儘にしてきたんじゃなかろうか。

 その証左に、この狼狽ぶりは名を変えて生きてきた男の姿では無かった。

 頭を抱える妹のヒルダ。

 彼女でさえ、冒険者の時に清濁飲み込んだのだ。

「いや、待て。待て待て、こ、こんななりで金貨1枚か?」

 怒りがこみ上げる。

 けど、先ず屋根の下であるという事を、忘れてはいけない。

 雨や風を凌げるという事だけでも、感謝しなくちゃならないのだ。

 野宿はもっと悲惨である。


 次に、野宿に付随する見張りをしないで済む安堵感。

 宿屋だから完全に安心が担保されている訳ではないけども、焚火の周りしか見えない暗闇と比較するのなら、月とスッポン。

 忍び寄る者は、軋む床が教えてくれるし。

 扉を挟めば数の利さえも叶えてくれる。

 正に合理的。

「まあまあ、仮に誰が使ったか分からないシーツが遺されているよりも...これはこれで清潔なんですよ? 毎日、新しい藁に取り替えてますし」

 師匠の目が据わってる。

 もう、面倒だなあ。

「冒険宿って、普通は素泊まりが基本なんですよ」

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