勇者の覇業 6
皇帝がざっと見渡し、
「ふーむ」
リーズ王国を挑発しそうになったとこで、手押し車の上にある勇者が。
「立派な陣屋ですね? 逗留して数日といった当たりでしょうか」
被せる技を身に着けてた。
三の王女の気配りも入ってる。
皇帝が話し出すと、喧嘩売ってるように見えるからだが。
「いえ、こちらが用意できた兵は千人程度。我が国の事ながらにお恥ずかしい限りです」
へりくだる剣星。
リーズ国王軍は、まあ。
この時は別の場所に待機してただけで、この場には千人だけの陣を敷いてた。
「ご謙遜を」
見抜いてます的な雰囲気を醸す。
勇者も政治を覚えたらしい。
これが、あたしの...
初面通しの時の印象だった。
◇
陣屋設営時には3千の兵があった。
爺ちゃんが飛ばすカラスによって、皇帝の動向を知ることが出来た。
結果、陣屋の設備は5千を収容できる規模へ。
「久しいな、ホーシャム・ロムジー殿」
並び立つ剣の巨人。
技のレイバーン、力のホーシャムとも評価される剣豪。
まあ、どっちも対軍向きの剣術なので、大量破壊兵器である。
「キサマも相変わらずで何よりだ...」
巨人同士で拳を突き合わせてた。
そこは握手でもいいとは思うんだが。
ふたりのジジイ同士、仲は悪かった。
紹介状を持ってきた、あたしに対する第一印象も良くなかったもんなあ。
ミロムさんを迎える数年前の話だ。
孫娘みたいなのが二人になると、レイバーン卿も好々爺然へ。
「“竜”だが」
あたしの話にフリたいのをぐっと我慢する爺ちゃん。
うん、大人だ。
「いや、正確にいうと“蛟”という蛇の類でな。水属性と闇属性の確認がされている。まあ、水なのは水源を縄張りとしている時点で、な...闇だと分かったのは、水底からの攻撃に際して影のような細い手が顕現したことによる」
「被害は?!」
こうした情報の開示には犠牲が付きまとう。
爺ちゃんも武人だから、血の匂いには敏感だったし。
目の前のレイバーン卿の顔が曇ったのも見逃してなかった。
「甚大だ。水の化け物を相手に船は下策だと諫言はした...が、教会の連中に背中を押された連中の勢いがあった...その損失の御蔭で今の情報がある。犠牲者は農兵で2千、船は3隻だ」
かなり大きめの船が失われたことになる。
教会の加護を当然受けたものだから、実質的に王国内の教会派ってのも発言権を失った。
ただ。
「恥の上塗り」
諫言した剣星さまに献策が委ねられるんだけど。
最初の失敗はすぐに忘れられる。
仮に成功しても、犠牲の上の成功だと言われるんで。
教会派の失敗であって、教会の権威が失墜することはないという。
「それが避けねばならない。どっちにしろ、竜殺しというのは勇者が持っていくのだろう? ワシは一向に構わないが、主人の我が強いとお互い苦労するものだな」
やや疲れ気味の剣星さま。
同じ苦労を持つ爺ちゃんも苦笑してた。
「ま、お前さんが知りたいのは孫娘のことだろう」
爺ちゃんの肩を叩き、
「筋がいい。魔法の才能が無い分、吸収が早い」
ニマニマする爺ちゃんは珍しい。
気持ち悪いやつって卿は言うんだけど、
「身内を褒められたら皆、こうなるものだよ」
「だな...最近、分かるようになった」
レイバーン卿に孫が出来た訳じゃなく、あたしが剣術大会で準優勝したからなんだけど。
年の離れた兄弟子に褒められたら、
卿が嬉し気だったんで...たぶん。
「...っさて、策を考えんとな」