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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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勇者の覇業 5

 吟遊詩人の第二幕は、リーズ王国領に出現した“竜”である。

 まあ、これは演目上かなりの改竄がなされてる。

 本来は河川に忍ぶ、蛇のような魔物なのだけど。

 水底を縄張りとしているから、滅多に水上へ上がってこないタイプだった。


 詩人は語る。

 ドーセット帝国皇帝と勇者の一行は、人々の安寧のために“竜”退治へと旅立ったのだと。

 嘘じゃないのが嫌らしい。



 手鼻で噛む騎士たちは、袖のレースを引き出して拭ってた。

 それ、ハンカチーフなんです。

 喰らう肉も手掴みで、油汚れは服の裾に擦り付ける。

 異世界の~暗部が垂れ流される、旅路かな...


 騎士とはいえ。

 平時から鎧を着ている印象は、ちょっと誇張し過ぎだ。

 旅路でも、フル装備でなくて軽装。

 動きやすさ、視界の広さに重点が置かれてた。

 兜被ったらさ。

 視界のほぼ真正面()()見えなくなるのって。

 不味くない?

「リーズ王国からの使者が御付きに!!」

 軽装備の剣士たち。

 ああ、あたしの兄弟子たちだ。

 あれ? この時、社会科見学でって話で...あたしも陣屋にいたような。

 うろ覚えだなあ。


 エルフの1年なんてこんなもんよ。


 えっと。

 話を戻すとして...

「この度の要請に応じて戴き」

 皇帝が口上を差し止めさせた。

「かつては共に戦場に立ち、剣を交えた者同士である。世辞を交えた堅苦しい挨拶は良い...勇者を抱えた我が国は、あの時より世界の為に玉体も捧げると誓った()である。故に、感謝も無用であるぞ!!」

 とか。

 傍目から見ると、だ。

 喧嘩を売りに来たのか、この野郎って思えた。

 ああ、思い出した――兄弟子と共に、使者に立ったあたしも其処に居た。

 腰の悪い勇者よりも、この皇帝に殺意が湧いたんだ。

「な、なんか大人げない、です...()()()()()

 皇帝の背筋を凍らせた一言。

 同年代の中年勇者からだ。

 三の王女の惚気た表情とは、非対称な皇帝。

 これは怖かった。

「お、大人げ...か?!」


「ええ、はい。ぼ、いや俺も騎乗で腰がヤバいんで...長く、これ以上は動きたくないんです。リーズ王国のみなさんは...この近くで、陣を敷いてたりは...していませんか?!」

 軽装とはいえ。

 鎧の中に終い切れないその腹は、ない。

 その怠惰が腰を悪くしているのだと。


 うん、誰も言わないのだろう。

「我が国の勇者が、まあ、こう申しておる。近くか?」

 皇帝としてはもう少し騎行を味わっておきたかった。

 久々であったし、暫くは戦争もなさそうだ。

 王国を騎乗で駆けるなんて、いつかの戦場ぶりとなれば。

「この先に剣星レイバーン・ブラッドフォード卿の陣があります」

 この時、兄弟子に代わって答えたのが()()()

 随行してたお爺ちゃんが、親指上げてた。


 謀ったな、爺ちゃん!!!



 馬車の中に戻る。

 吟遊詩人の第二幕“竜殺しの勇者”は、一気に語ろうとすると喉が死ぬ。

 序文の長さが冗長過ぎるのだ。


 ここを削ると、帝国と王国が接しているように思われて気味悪がられるし。

 互いに温度差のある話なので無下にはできない。

 しかも、吟遊詩人の間でも――帝国に要請してきた王国とか、勇者が王宮に参上したという表現とで食い違うほどに仲が悪い。大陸の覇権を賭けた超大国同士だからこそ、互いに譲れないものがあるらしい。

 本当に、面倒な連中だ。

 そんな事より、当事者の河川利用者は泣いてるんだって。

 気づけ、バカ貴族ども。

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