勇者の覇業 4
隠してるつもりは無いが。
ロムジー家は、母の家系だ。
お爺ちゃんとの仲もわりと良好で、帝国に遊びに行ったら――なんだかんだで都合をつくって遊んでくれたこともある。まあ、その当時のお弟子さんらには悪い事したかも『孫とのデートなんで、お前らは勝手にそこら辺で素振りしてろ!! いいか、孫とのデートを一瞬でも邪魔してみろ?! 城外でミンチにしてやるからな』とか恫喝されたって話。
あれ? この話。
ヒルダさんから聞いたんだっけ?
まあいいや。
◇
食いつきが良かったのは師匠だったなあ。
隠してたわけじゃないけど、遠回りに隠匿してたようなものだからか。
「じゃ、軍用七法は」
首を横に振った。
知らないふりはしていない。
ただ、全部は知らないだけ。
お爺ちゃんがみっちり教えてくれたのは剣術だったし。
そのあと「誰に教わったら、もっと強くなれるかなあ」なんて他愛もない話をすると。
お爺ちゃんはやや寂し気に。
「リーズ王国の剣術指南役が適任じゃろ。儂の名で紹介状を書いておく...帝国式の孫がお前のとこに学びに行く故、末席に必ず迎え入れて免許皆伝まで面倒見ろ!!と、恫喝しておこう」
いやあ。
そんな物騒な紹介状要らないよ~
とか、会話したような記憶があるような。
ないような...
「マヂか?!」
師匠曰く。
格闘術の基本が出来ていたから、なんとなく癇に障ったという。
そこで厳しく“雑用係”として当たったというのだけど。
師匠は、あたしの目の前で平身低頭に謝罪してきた。
うっわ、
これ...あかん奴だ。
個人の技量には何ら関心がなく。
バックの状況で手のひらをクルクル回すタイプ――それが師匠だと。
「じゃ、じゃあさ! 私とも姉妹弟子とか...そんな感じ?!!!」
ヒルダさんの方は好感度抜群だ。
てか、今、急上昇しているあたし。
おおお...
「セルコットちゃんて凄かったんだ!!」
馭者のアイヴァーさんが振り返ってた。
前、前見て運転をぉぉぉぉぉ!!
二頭の馬が左右に分かれて歩き出しそうになってた。
手綱を握ってない証左のような。
「――で、でさあ!」
後輩が話に横やりを入れてくれた。
これ以上、あたしの素性はバラされるヤバイ。
何がって。
王国式も帝国式も極めている事実。
ただの田舎娘的なエルフじゃないこと。
ま、世間には疎いけど。
そこら辺のもろもろに~
「魔獣を倒した勇者さまはそのあと...」
どうしたの?という流れに戻す。
旅は長いのだ。
あたしの事で盛り上がる前に、吟遊詩人たちが語る勇者の物語に胸を躍らせよう!!
ってことで。
◆
三つ首の魔獣を倒した一行は、帝都に戻る。
皇帝と勇者の間には“父と息子”のような固い絆が生まれてた。
いや、どっちかというと戦友のような――もっとも同年代から『お義父さん』とはちょっと呼ばれたくはない。三の王女が惚れ込んでいるとはいえ、皇帝の醒めた目には、無精ひげと顎と首の境目がない凡庸な中年男性がそこにある。
胸鎧の上から拳で何度も叩いて戒める。
あれは、世界を救う勇者である、と。
と同時に婿になるのではという不安。
《ちょっと嫌だなあ...》
って吐露しちゃってた。