勇者の覇業 3
「――かの魔物が吐く息には毒のような効果があって。生けるすべての命を終いに出来る力があった」
ここら辺は、吟遊詩人の語りの部分。
物語の導入で。
体毛は固く、鋼の刃の悉く弾いて寄せ付けなかったと言うんだ。
魔法も届かない魔物に立ち向かうは、帝国に現れた小太りな中年――もとい、精悍なる勇者さま。
同じ時。
同じ世界で生きているとは思えないほどの~
冒険譚なんだけど。
ほんと。
隣の大陸に今、普通に居るんだよね。
◇
『魔を退けろ!! ライトニング!!!!!!』
野太く低音ボイスが空に響くと、
暗雲の切れ間から光の塊が魔獣を襲った。
三つ首の一つが、グロテスクな千切れ方で吹き飛んで――パーティの脇へと転がってた。
いや、重量のある音と。
腰に響く重さは確かにあった。
その証拠に。
「ぐぅー」
って、中年勇者が片膝を突いてた。
腰に響いたのなら、彼の爆弾にも届くわけで。
そりゃ滅茶苦茶痛いだろ。
「勇者さま!!!」
聖女としてパーティのサポートに徹する、三の王女が駆け寄ってくる。
彼女の目には、白馬の王子様のように乙女チックなフィルターが掛かってるんだけども。
まあ、いいか。
「来るな!! まだ、まだ戦える! 王女は兵とお父上の回復を!!!」
台詞はいい。
挺身な心構えと、気配りに溢れ、周りが見えているような。
勇者らしく見えるから。
でも。
「儂もだ! 儂も回復は要らぬ!!」
肩の鎧は吹き飛ばされて。
勇者の放った魔法攻撃による、フレンドファイアーが原因だけども。
盾しか持たない左肩の肉の話。
振るう右手と剣筋には影響がないと、皇帝は言い放ってた。
「王女よ、防御結界だ!!」
王女が忙しい。
教会の戦闘修道士らが共に参戦してるけど。
聖女となった彼女の仕事は多岐に渡ってた。
魔獣が放つ異界のような瘴気。
触れるすべてを腐食させられる力があった。
その力から皆を守らねばならない。
MPエナジードリンクが多数、空けられた。
「お、王女...鼻血が?!」
勇者が気付く。
ただ、腰が決まってて今は、気が付くだけしか。
この勇者...
たく、使えねえなあ。
あたしの感想だけど。
「へ、平気です。勇者様」
袖で血を拭って、微笑む。
笑顔にも疲労感は浮かんでるんだけど。
ポーションを飲み干して、
聖女こと三の王女は、対物理耐性強化魔法を参加者全員に掛けた。
勿論、自分自身にもだが。
「みっつある頭のうち、ふたつは潰した!! イケるぞ兵士たちよ。我が国の騎士たちよ! 帝国の勇者と共に、今ここで名乗りをあげよ。後世に語り継がれるよう名をあげよ、今一度、ハートに戦火を熾して魂を燃やさん!!! 我に続けッ」
って。
皇帝が自ら剣と鼓舞をして回って。
士気を揚げてた。
えっとこの時の勇者は、腰の爆弾に涙目で。
神様の“腰痛緩和”スキルによって3分間の休養を盗ると、身体強化レベルが不死身の身体へ一次的にレベルアップするっていう。
ワンセットなんだけど。
この3分間ってのがみそだ。
魔獣退治の時も、勇者の参戦は遅れての参加となってて。
皇帝がボロボロになってから、止めを勇者が。
◇
「――と、地獄の番犬は勇者の手によって討ち滅ぼされた。その戦いに参戦した中に我が剣の師があって...」
「え、ホーシャム・ロムジー元帥ちゃんが居たん?!」
あたしの失言に、再び皆の視線が。
「元帥をじいちゃん?!」
あ、そっちか。