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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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勇者の覇業 2

 あたしたちが今の国に来る前の大陸では、戦争も紛争も絶えはしなかったけども。

 それなりの文明を築いてた。

 いや、何かの周期なのか悪戯か。


 人々の文明がある一定に達すると、災害が起きてたような印象もあるけど。

 娯楽と言えば、吟遊詩人と旅芸人たちによる即興劇が、いちばんの楽しみだったねえ。

 帝国や王国ならば町中に劇場があって。

 そこで毎夜、演劇が開催されてる。



 ま、そういうトコは総じて、値が張るんだ。

 ドレスコードってのもあって。

 一張羅がローブなんて怪しいあたしが行く場所でもない。

 ま、昔は裏稼業で、ちょこっと行きはしたけど。

 本当にちょこっとだ。



 そんな娯楽の薄い世界において。

 勇者の覇業或いは偉業ってのは眩しい物語だった。

 こっちでは、本当に聞かないんだけどね。


「そりゃ、世界が違うからだよ」

 ってのは馭者のアイヴァーさんからの()()

「世界が違う?」

 時々、振り返るアイヴァーさん。

 馭者なんだから前をみてください。

 ほら、今、すれ違った定期馬車!!

 あたしらを避けて脱輪しかけてたし。

超大陸あちらが主戦場だからってのもあるけど。勇者が狩るという魔物のレベルが、他の島々や大陸とは段違いに高い。そうだなあ、こちらでの魔物レベルがドーセット帝国の方では、スライムくらいのものと思えば...想像がつく?」

 そりゃ、吟遊詩人に語られるか。


「でしょう!」

 おお。

 ヒルダさんがふんぞり返ってるけど、あなたの覇業の話じゃなくてよ。

 まったく...

 勇者さまの事になると。

「じゃ、さあ。物語が聞きたいなあ」

 って後輩が話を投げた。

 退屈しのぎにはなるだろうって。


 ま、後輩が道を知ってるし。

 あたしらは彼女とともに行く事にしたのだから...

 付き合いましょう。

「言い出しっぺは、セルコットだからね」

 あ、そうでした。



 勇者さまがあられた元の世界では、区役所員という職業に就き。

 市民に尽くす奉仕活動に追われてたという。

 こちらの世界では、教会のような社会構造なのだろう。


 福祉事業に詳しかったから。

 さて、彼の最初の偉業は帝国国境に現れた、三つ首の魔獣退治になるだろう。

 ほとんど天災級に匹敵する被害の数々。

 文明が進んで、地方の村にまで街灯が敷かれることになった頃。

 その魔物が突如、現れたのである。


「うん、なんか神様の仕込みのように思えてきた」

 あたしがまたも、腰を折った。

 みんな前のめりでヒルダの語りに耳を傾けた矢先にだ。

「ちょっとー!!」


「いいとこで、なんでお前が出るんだよ!!」

 師匠に小突かれ、おっぱいを庇いながら転がるあたし。

 やだー

 師匠突き飛ばさないで―、おっぱいを~

「背中みたいな()()に興味はない!!」

 ひ、ひどい。

「で、続きは?!」

 もう一度食いつき始める。

 ま、すんすん泣くあたしはミロムさんが引き取ったわけだけども。

「――三つ首の魔獣は、地獄の番犬!! 国境線を跨ぐように大小さまざまな村、街、開拓地に被害が出た。その姿は黒い霧を纏って、森よりも大きく、大食漢でなんでも良く噛んで食ってたという」

 ほんほん。

「何でも良く噛んで食うのは大事だよね」

 ああ。

 みんなの視線が熱い。

 いや、熱すぎる。

 怖えなあ。

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