勇者の覇業 2
あたしたちが今の国に来る前の大陸では、戦争も紛争も絶えはしなかったけども。
それなりの文明を築いてた。
いや、何かの周期なのか悪戯か。
人々の文明がある一定に達すると、災害が起きてたような印象もあるけど。
娯楽と言えば、吟遊詩人と旅芸人たちによる即興劇が、いちばんの楽しみだったねえ。
帝国や王国ならば町中に劇場があって。
そこで毎夜、演劇が開催されてる。
ま、そういうトコは総じて、値が張るんだ。
ドレスコードってのもあって。
一張羅がローブなんて怪しいあたしが行く場所でもない。
ま、昔は裏稼業で、ちょこっと行きはしたけど。
本当にちょこっとだ。
◇
そんな娯楽の薄い世界において。
勇者の覇業或いは偉業ってのは眩しい物語だった。
こっちでは、本当に聞かないんだけどね。
「そりゃ、世界が違うからだよ」
ってのは馭者のアイヴァーさんからのもの。
「世界が違う?」
時々、振り返るアイヴァーさん。
馭者なんだから前をみてください。
ほら、今、すれ違った定期馬車!!
あたしらを避けて脱輪しかけてたし。
「超大陸が主戦場だからってのもあるけど。勇者が狩るという魔物のレベルが、他の島々や大陸とは段違いに高い。そうだなあ、こちらでの魔物レベルがドーセット帝国の方では、スライムくらいのものと思えば...想像がつく?」
そりゃ、吟遊詩人に語られるか。
「でしょう!」
おお。
ヒルダさんがふんぞり返ってるけど、あなたの覇業の話じゃなくてよ。
まったく...
勇者さまの事になると。
「じゃ、さあ。物語が聞きたいなあ」
って後輩が話を投げた。
退屈しのぎにはなるだろうって。
ま、後輩が道を知ってるし。
あたしらは彼女とともに行く事にしたのだから...
付き合いましょう。
「言い出しっぺは、セルコットだからね」
あ、そうでした。
◇
勇者さまがあられた元の世界では、区役所員という職業に就き。
市民に尽くす奉仕活動に追われてたという。
こちらの世界では、教会のような社会構造なのだろう。
福祉事業に詳しかったから。
さて、彼の最初の偉業は帝国国境に現れた、三つ首の魔獣退治になるだろう。
ほとんど天災級に匹敵する被害の数々。
文明が進んで、地方の村にまで街灯が敷かれることになった頃。
その魔物が突如、現れたのである。
「うん、なんか神様の仕込みのように思えてきた」
あたしがまたも、腰を折った。
みんな前のめりでヒルダの語りに耳を傾けた矢先にだ。
「ちょっとー!!」
「いいとこで、なんでお前が出るんだよ!!」
師匠に小突かれ、おっぱいを庇いながら転がるあたし。
やだー
師匠突き飛ばさないで―、おっぱいを~
「背中みたいなもんに興味はない!!」
ひ、ひどい。
「で、続きは?!」
もう一度食いつき始める。
ま、すんすん泣くあたしはミロムさんが引き取ったわけだけども。
「――三つ首の魔獣は、地獄の番犬!! 国境線を跨ぐように大小さまざまな村、街、開拓地に被害が出た。その姿は黒い霧を纏って、森よりも大きく、大食漢でなんでも良く噛んで食ってたという」
ほんほん。
「何でも良く噛んで食うのは大事だよね」
ああ。
みんなの視線が熱い。
いや、熱すぎる。
怖えなあ。




