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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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旅立ちの日、陽は未だ昇らず

 聖都の門近くで、人影をみる。

 シグルドさんと師匠の二人が馬車を用意して待ち惚けてた。

「なんだ! 本当に女どもだけで行かせると、思ったのか?」

 口は悪いけど、本音じゃない。

 師匠らしい気遣いで。

 馬車はシグルドさんの懐の方。

「ま、大きな()()じゃありませんが、私の組織とこの者が馭者も手配してくれました」

 馭者と紹介された男が、幌の奥から手を振った。

 背中だけの挨拶だけど――この人をあたしは知っている。

 直感だけど、アイヴァーさんだ。

「でも、師匠?」

 あたしの情けない声音にデコピンが。

「聖都の後始末なんざ、太守殿に任せればいい。そもそも俺たちの与り知らない事だ」

 確かに。



 それでもシグルドさんらの組織から、ハトが飛んできた。

 ラグナル聖国の騒動は、宗教国家らしい決着を見せたという――魔女裁判だ。

 唆した結社の残党は残らず火刑に処され。

 オークニー商会の子供たちから何までも、道連れと言う厳しい処断。

「こんなこと」

 あたしの胸は苦しく痛む。

 これは自分勝手なことなんかな。

「これは見せしめです」

 後輩に難しい顔をさせた。

 異端審問官だから、こういう機会は目にしているだろうし。

 経験もあるだろう。

 それでも慣れることはない。

「うん、セルコットのは普通な反応だ。兄上や私も、上に立つ者として当然、教育の範疇だけど。これは必要悪として割り切って持っている。ミロムも? いや、彼女もセルコットと同じか」

 って言われるまで。

 ミロムさんの顔は見てなかった。

 彼女も苦虫を嚙みつぶしたような、酷い表情だった。

 しわくちゃで...

「これ、にが...腐ってました」

 渋そうな果物を喰ってた。

 えー

「あ、はい?」

 ミロムさんは天然過ぎる~

「腐っちゃあ、いないけど。寝かせてたもん喰うか普通?!」

 いや。

 この流れで喰いますかって。

 ああ、もういいや。



「後輩ちゃんや、行先は?」

 アイヴァーさんから。

 馬車はのろのろと走り出してて、行く当てもなくふらふらと。

「メガ・ラニア公国ですが、この道を戻って左の街道へ出てほしかったです。なんか、久しぶりの和気あいあいとした雰囲気でしたので、楽しくてつい...失念してました」

 後輩がしおらしいのは初めてか。

 いや、アイヴァーさんの方をちらちらと上目遣いに見る当たり。

 やや!! これは。

「詮索はダメだぞ、セルコットさん」

 ミロムさんから何かを口移しで貰う。

 皆が見ているところでの唐突なキスなわけで――「にがっ! いや、渋ッ!!!」さっきの変な果物だ。

 口の中がヒリヒリする。

 舌先なんて感覚麻痺してるし?!

 マヒって。

 “神の賽”が“1のゾロ目”で振られてるし。

 滅多に出ないファンブルでひどい目に。



 一方、メガ・ラニア公国では。

 戦支度の真っ最中にあった。

「篝火が足りぬ!!」

 断崖絶壁に聳え立つ王城が、灼けるように輝いている。

 銅鑼の音が鳴りやまない夜。


 国境の関をひとつの馬車が通過した。

 マディヤ・ラジコートのご一行様である。

 馬車に飛び乗ってきた、燕尾服の女性――「義妹ナシムのご迷惑お掛けしていませんか」和装の男アグラの真横に座ってきた。

「君がこの地に居るとは、これは何かの前触れかな?」


「いえ、滅相も。大した事はないのですが...“目”の者が余計なものを見つめてしまい」

 歯切れが悪い。

 察したマディヤは、

「同行を赦す。ボクの宿までついてくるといい」

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