聖都の始末 6
殊勝なことに後輩は、見舞いだという花束とともにきてくれた。
服装は何処か他所他所しいというか、旅支度でも終えたような雰囲気で。
外套に...
衣の下は、リングメイルか?
メイド服のミロムさんが、花を受け取り水場へ。
彼女らしい気配りだと思う。
「どこへ行く気?」
こんな事に巻き込まなければ、あの街で揶揄われていたのは、あたしの方だ。
いつもの宿屋で、
賭けで負けて、酔い潰れたあたしを健気に介抱する。
優しい後輩。
「分かっちゃいますか」
うんうん。
めい一杯、取り繕った顔だったもん。
ミロムさんも見抜いてたぞ。
「聖都までは成り行きだったかも知れない。ま、正教会に雇われてたこともあるけど」
「ええ、短期間ですね」
つれないよね。
いや、水臭いよねって言い換えよう。
「――報酬は出しました」
受け取った。
けど、それは半分だけだ。
「うん。でも、あたしを残して行くことはない!!」
いや。
さあ、出てきてよ...
「教会の仕事なら邪魔はしないが、旅の供としてならいい人材を知っている! 日当で良い、そうだなあ教会の者ならば金貨いやいや、銀貨も払えるとは思えぬ故。そうだ、私は気前がいいのだ!!」
ちょ、ヒルダさん。
「日当は銅貨50枚。三食の面倒は教会で見てくれよ、それと...出来高の臨時褒賞があれば尚、良しだ!!! どうだ、破格だろう~♪」
鼻歌が混じる上機嫌。
こんな彼女も珍しい。
師匠に気絶させられ、すっかり毒気が抜かれたようだ。
「えっと、これは?」
困惑している後輩に、ここであたしが微笑んだ。
いや、これを嗤うなって方が難しい。
◇
ミロムさんが戻り、
女子3人で後輩を囲むシーンなんだけど。
個室だった御蔭で随分と、くだけた女子会になった。
「あたしは未だ船を降りてない。いや、関わったことで、より抜け出せなくなったと感じてる」
何故って台詞は、掛けた3人にも戻っていく。
だってあの結社は、今の世界を壊すことが目的だからだ。
あたしと、3人の友人とその周囲の人々にも影響する。
例えば、あたし。
独立している一個のエルフだけど、ツケ込んでた宿屋のおじさんや、教会の牧師さん。賭け仲間の猟師のおじさんに、その奥さん。えっとそれから、ギルド長に...武器屋のお姉ちゃんも、みんなみんな家族じゃないけど繋がってて、あたしはこの世界がキライじゃない。
うん、それだけ。
ヒルダは...。
海向こうの帝国に籍を置く人間だけど、彼女自身も大なり小なりで人々から影響を受けてる筈。
ミロムさんも、きっと同じだろう。
後輩は?
「当方も、あの街の人たちが大好きです。鍛冶屋の娘さんに、甲冑屋のお父さん、養鶏家の伯母さまからいつも新鮮な卵を貰ってました。酪農家のおじさまはミルクを...懐かしいですね、先輩」
「うん、懐かしいね」
昔話に花が咲き。
大いに語らい合って、4人は結論を出す。
旅立ちの決意。
そこに、師匠の姿は無いんだけど――