ちょっと前の、地下闘技場で 2
人影は走り去った後だった。
追いかけたんだけど、ポール君の足が遅かった。
仕方ない。
だって、背も低いけど...足も短いから。
さて、走り去った影のあったところを捜索する。
天井からこぼれる陽の光は、幻想的だった。
舞い上がった埃がキラキラと光る。
咄嗟に防護マスクを口へ。
吸い込んだのは少量だが、念のためにアンプル数本を全身から被ってた。
「ちっぃ、油断した!」
周りを見ると、拳闘士たちが使ってた、控え室のような雰囲気。
粗末だけども個室のようだ。
奥に人影。
尻尾がある。
長い――爬人の拳闘士と思われる。
「ソードマスター?!」
「待て、こっちに来る前に...」
殺気が背中に奔る。
背中に重い一撃を貰う。
振り返られなかった――足が短いから。
ただ、転がった方が早い時もある。
「マスター!!!」
殴ってきた相手が分かるのだろう。
協会の調査員に交じって、彼の弟子の剣士と魔法使いらがある。
魔法の気配を感じ、
「待て、撃つな!!」
ヨタヨタになりながらも、前傾姿勢で奔ることに成功し――背後から空き缶のようなモノの転がる音がした。チリッチリッと火花が散るようなジッジジって金属の擦れる音も僅かに聞こえた。
「伏せろー!!」
が、ポール君の最後の声。
彼の元居た場所から巨大な炎が上がり、半地下の闘技場一部が吹き飛んだ。
それは地上の何処からでも、目撃することが出来たんだ。
◆◇◆◇◆◇
後輩と共に彼女が経営したた、宿屋に一旦撤収。
さてと、落ち着いたところで。
「ご飯にしますか、それともお風呂をすっ飛ばして、姐さまを吸わせてくれるんでしょうか?」
おいおい。
「風呂すっ飛ばすな!」
「えっと、当方は姐さまの今を吸いたいのですが」
今、ったたらついさっきトイレいったのも...
もじもじする、あたし。
「ええ、トイレに行って貰ったんで...これは非常に美味しそうな姐さまが」
嫌いになるぞ!
って目をしても後輩にはダメなんだ。
昔から。
ああ、学院に居た時から、こいつと覇腐れ縁だ。
「観念したなら、ティッシュ付きのヒダ、見せてください」
おぉい、ストレートに。
もうちょっとオブラートに包めよ。
あたしの乙女心に配慮はねえのか!!
「あ、そうだ! メシ、メシを喰おう」
やや残念そうな彼女を見る。
っちくしょー、そんな顔をしたらこっちがきゅっとくるだろ。
こう、なんか...悪い事したかなって、思っちゃう。
「ああ、分かった。吸うんだろ、ほどほどに」
◇◆◇◆◇◆
気が付けば朝だ、わ。
夕飯も喰わずに逝き狂いってヤツだ。
痕跡は、乾ききって無いシーツのシミと、床の濡れ具合。
これはアレだ、漏らした。
「あんにゃら~」
起き上がろうとして、肩から一気に力抜けた。
天井に鏡が無いからどうなってるかも...
首だけは辛うじて動く。
「...」
左右の確認。
這うどころか寝返りも難しい。
なんで?
「お目覚めですね!」
後輩が覗き込んできた。
「昨晩は激しくて、姐さま逝き過ぎたんで...今、充電中です」
?
あたしは家電じゃないんだけどね。
「スーリヤ神の従者の方々に診て貰ってます」
はい?
「あ、えっと健康診断みたいなもんだと思ってください。従者の方々としては、逝き狂いした後のすっからかんになった姐さまを診て、判断したかったと申されております...姐さまは、今までも教会や聖地巡礼とかされてないでしょ?」
「あ、はい」
ギルド長に半ば飼殺されてたんで。
「本来は、わりと定期健診があるんですけどね...今回は、特例だそうです」
後輩は動かせない頭向こうの誰かと対話した後で、あたしに言い聞かせてくれる。
それは...いい。
と、なると...あたしの今の恰好は?
「素っ裸です! 生まれたまんまの姿とも言いますが、ま、姐さまの場合はいろいろと...ね、成長もしていますし。当方にとってもこんな明るいところで、そのピンク色のアレとか、ソコとか、えっと...え、ソコも広げて診るんですか、あ、ハイ...ええ、まだ指とその舌だけで」
おおおーい!!!
こらー!
「なんですか、姐さま?」
大声なんか出して、と宥められ。
いや、まてまて。
「ちょっと、後輩ちゃん?」




