聖都の始末 5
「すべてが成功したわけじゃない。そう、すべてが...」
歯切れが悪そうだ。
「なにか?」
「コンバートルの方面だ。結社の撃ち漏らしなどの残敵処理が終了した。ただし、我々は致命的な見逃しという、極めて目を逸らすべきじゃなかったことがる」
何です、それはって声音が静かに後輩から出た。
溜めるでもなく、巡礼者は。
「コンバートル王が廃位されたことだ」
それは、市民革命が成功したという意味。
確かに良手ではなかったけども、市民が敵か味方か分からない状況で、貴族の一人が殺害されるということが起きた。
しかも、ただの貴族ではない。
国王の親族である重鎮中の重鎮――それゆえに、市民への弾圧も苛烈だったことは確かだ。
王都の上級、中級貴族たちは身に危険を感じ。
そして市民に近い地方の小貴族たちは、逃げるすべなく蹂躙される。
「貴族の上下なんてものは市民の目から見れば、どれも同じ。身包み剥げば只の人って考えは、狂喜乱舞している方にも気づきが無くなるいい例だ。これは、特権階級の性質かもしれないぞ?」
沈黙。
日頃の行いがいいから、混乱時は優遇される夢想はないという。
貴族を縛り上げろ!
貴族を吊るせ!!
貴族に死を、貴族に辱めを!
貴族の父を持つ、母が元貴族、貴族の庶子、金で買った貴族名...挙げてもキリがないけど、貴族に由来するものがすべて対象になった完全否定の狭い世界。服を脱がされ、髪も切られて半裸、裸足で晒されながらねり歩く。
出会ったすべての人から唾を吐かれるし。
石も投げられる。
『こんな事は無意味だ!!』と、諭すものはいない。
悪意に満ちた目で、
貴族だった者たちを蔑むのだ。
廃位した王は?!
「死んだよ、種を残すな! この世から王族という病原体を抹殺するんだってね、あれはホラーだ。断頭台が持ち出されたことも、彼のような若輩な王に下される罰でもない」
「教会は?」
この場合は、聖都にあるラグナル正教。
獅子を仕留めた乙女神という少女神の教会連中だが。
「聖都がこのありさまだ、機能できるはずもないし、王族の処刑に意見でも使用ならいくら強大といっても教会だからね。市民を敵に回して、信者をつなぎ留めることはできない......」
諸刃の剣だ。
信者数千万人は、貴族に向ける脅しである。
王国市民に向けることはない。
いや、あってはならないんだ。
難儀。
後輩が腕を組む。
「その波」
「いや、ここに来ることはないだろう。経済が不安定だったならば、結社にもチャンスがあっただろう。これらの企みが不発でも、気が付けば国庫が空だったら、例のごとく騒ぎ立てればいい。そうした準備もあった筈だ」
龍海商会の金蔵には白金貨の準備金の代わりに純金のインゴットが眠ってた。
増産するためのものだったか、或いは方々から買い漁ったか。
何れにせよ、金相場は普段よりかは、いくらか高くなっている。
「相場操作もあったんだろう」
「これはここで不発、と」
でもない。
王国の瓦解は、確実に混乱の火種である。
防げなかったのだから、結社とあたしたちとで、引き分けだ。
「やってくれる。あいつらは帝国と同じく別の大陸にあるというのに、こちらの首を真綿で締め付けてくれる。ドーセット帝国の依頼でなければ、投げ出したい気分だ」
「では、次の」
「ああ。メガ・ラニア公国へ飛んでくれるか?」
後輩の使命はまだ終わらない。
ってと、あたしも?
マジかあ。