聖都の始末 4
「これで、ふたつ目か?」
像の前に餅にも似たものを置く。
言葉の真意を探られまいとする、偽装工作だけども。
「結社らはあと幾つあるのでしょうか? この程度で瓦解するとも思えません」
後輩の腹が鳴る。
あたしを見舞いにくれば小腹くらいは、満たせられるものがあった。
巡礼者が彼女へ、像に捧げたものと同じものを差し入れてくれた。
「これは?」
「そこの屋台で買ったものだ」
狩って直ぐに、巡礼者も口にしたが。
口端に白い粉が付く。
「見た目よりも少し...固めなのですね」
平べったいパンに似たもの。
ジャムか蜂蜜でも塗れば、ワンチャンス。
それでも味が無いというと、少し悪い気がする。
やや地味。
味を強く主張することがないだけで。
この白い粉にやや甘さをみる。
うん、宗教国家で華やかな甘未があると思ってはダメってことかも。
ソレ。
柱の傍に獅子を押さえつけてた女神が、戦に赴いたときに持参してた非常食だったのを模したもの。
こちらでは“戦煎餅”と呼ぶらしい。
女神時代では、もう少し固く砕いて食す。
出来れば汁などで浸して食べると、良いとか。
今は、パンになった。
「正教会の調べでは、メガ・ラニア公国でもきな臭い動きがあるとのことだ」
女神正教会の諜報機関“巡礼導師会”。
牧師レベルにある元、冒険者や傭兵らを対象とした密偵たち。
腕に覚えがある彼らが、各地で布教活動とともに斥候で身銭を稼いでいる。
この諜報能力の高さがあるから、大陸の女神正教会はラグナル聖国とも穏健でいられたのだ。
「メガ・ラニア、ですか...」
いい話は確かに聞こえない。
ラグナルの東、コンバートルの北に位置し、国土の殆どが隆起した丘陵地にあって。
さらに東に海を臨む、大陸の端っこという印象。
「海がある国だが、同系の国家としてみると内陸の国と大差ない。理由は、海に面した開けた地が無いからだ。隆起した土地柄か、海岸線は数百キロメートルに及ぶ断崖絶壁で阻まれており、打ち寄せる波は荒々しく激しい。癇癪持ちの女性のような...」
後輩が咳払いをひとつ。
癇に障ったようだ。
「断崖から沖までの数百メートルは、恐らく大陸棚がある。付近まで寄ったと思える船の残骸も見れるため、ま...流れ着いたとも考えられるが、断崖に打ち上げられたら壁と激しい波で、打ち壊されるのも時間の問題と言う、感じだ。こうして、公国は恵の海からも見放された形のようでな...人々の目は普段から死んだ魚のように見えるという」
見てきた者たちの感想が入ってる。
連絡係の巡礼者が、訪れたことはない。
彼は、この聖都に根を張るお役目の人。
「そんな公国に何が出来ると?」
貧しいから、傭兵仕事に手を染める。
高原野菜として改良されるのは、もっとずっと後の時代のこと。
麦も環境が厳し過ぎて自給自足の4割にも満たない。
森に入って狩りをして肉を得ても、村の一握りはその日の食も得られない。
「今までの企みがそれぞれに、成功してたと考えると怖くならないか? 王国のクーデターからパワーバランスが無くなる。抱える魔法剣士は流出し、王国の武力は平均或いは以下になる。聖国の経済力と求心力は大陸の核だ。これらの信用がなくなった時、この大陸は...」
「混沌と化す」
唾を飲み込んだ。
白い粉を乗せたパンで喉が詰まりそうになる。
やや咽て、巡礼者から水を頂く後輩。