聖都の始末 1
教皇庁にある大浴場に浮いているのは、エルフです。
そう、のんびり浸かってたら唐突にヒルダさんから足蹴にされて、今、浮いているんです。
失神。
そんな可愛いもんじゃなく...半分、死にました。
今、彼岸の向こう側におばあちゃんが手を振ってます。
え? そっち行ってもいいの???
そんなこたあない。
浮いてたあたしを引き上げたのも、ヒルダさんです。
「や、ごめーん」
ヒルダさんは偽名。
大陸にある“ドーセット帝国”の皇女殿下である身分を隠すために。
響きの似た言葉で組み合わせて、呼ばせてるもの。
ただ、なんでまた。
そういう疑問が浮かばないことはない――帝国の皇族が何で市井で“剣”を振るっているのか。
あたしにも皆目見当が。
「ほら、ほらほらおっきろー!!!」
揺さぶるなあ~
起こすなら手順を踏めー。
「ふんす、先ずは触診」
そう。
優しくね。
「じゃ、打ち身――外傷なし!」
待て待て。
首の後ろ、あたしは短髪だから見えるでしょ!
そこ、そのあたり青くなって。
「ないな...あとはわき腹?」
ちょっと見ないでよ。
お肉摘まめると、気にしてるんだから。
「おお、意外にデブ」
ひどーい
「この肉が胸にあれば、揉みやすいのに」
あああー
揉まないでよ~
おっぱいは歳相応の成長ぶりなんだから、小さくても。
や、や...な、なんか身体が熱く。
「うむ! 生理現象は普通、いあ、感度は良いな。TKBも陥没から勃ってきた」
解説はやめて~
ミロムさんには見せられませんが。
今、湯船でやっちゃいました。
磯っぽくして、ごめんなさい。
◇
「大浴場で、大いに欲情しているふたりは何の韻を踏んだんだ?!」
この浴場は混浴で。
いあ、男女別の風呂というのは、一般的にはサウナだ。
肌着一枚を身に着けて、皆が思い思いに長椅子に腰掛ける。
足元からの湯気を浴びて咽るのが通説。
咽る理由としてもっともな答えってのが、誰かの水虫のせい...とか。
体臭がキツイと余計、咽るっていう報告もある。
ただ、サウナでも汗をかくことで。
身体的に良いとされる。
「兄上さま!!」
声を掛けられ、師匠に背を見せてたヒルダさんが振り返る。
遠心力で引き寄せられた、おっぱいが揺れた。
胸筋だと思ってたものが、だ。
「「ま、マジか?!」」
あたしと、師匠の声が重なった瞬間だ。
まあ、あたしの場合は心の声音なんだけどね。
「??」
兄に見られても平気な妹。
うんシュールな気がするけど。
カオスのような気も。
「まあ、いいから。今、お前が放り投げた、バカ弟子の回収を頼む。なんか目がくるくる回ってる感じで、本当に彼岸を渡りそうだ...」
ヒルダさんの馬鹿力で、放られたあたし。
浴場中央に設置されたオブジェクトと激突したらしく出血。
湯船が赤く染まる大惨事。
師匠に尻を見られるという屈辱も――。
◆
聖都の後始末は、わりとなんて言葉では叶わない。
まず、あたしが“金色”としてやらかした方が甚大だ。
商業区が吹き飛んだ。
いや、正確には蒸発した。
これは結社の老翁が招くはずだった、究極の自殺魔法よりも最悪なこと。
彼の場合の範囲なんてのはたかが、10数メートルだ。
攻城決戦魔法と対比には出来ない。
あれは、そう。
ごくごく一般的に、災害である。
「...らしくまとめるな、バカ弟子」
覚醒したあたしはベッドの上。
ここは病院である。
「ほわ?」
「商業区の出来事は、機密事項だ! 滅多なことを言うんじゃねえぞ」
これは...
「口止めだ、バカ!!」




