聖都の攻防 58 甘くない沙汰 33
ガムストンさんは持てる生命力のすべてを蘇生という単語に使い込んだ。
超回復の源であるハイポーションやらのアイテムと、神様のプレゼントによって“死の淵”から生還した――よって、彼には立ち上がる気力もなにも無い状態で、あたし...いあ、金色のサイクロプスを見上げてたわけだ。
負けを素直に認めてくれるのはありがたい。
だって、これ以上戦わなくて済むからだし。
命を助けたのに...ってのもある。
いやあ、これはちょっとらしくないな。
◇
座り込んだままの巨漢の彼。
虚ろ気味な目つきに、折れていない心の灯が見える。
「あの技を使わせて生きていたのは...お前だけだ」
上から目線の傲慢な物言い。
暗殺者殺しムーブ足りえる強者の言葉――胸中ずっと猛省中なあたしをミロムさんに慰めてほしい。
「お、おれは...ま、まけ、負けたの、..だ、な」
「時が来た...」
どこでもない空を見る。
黒衣のローブが上昇気流で舞った――こ、これは自然現象です。
よくよく見ると、殺風景な区画になったものだけど...
これちゃんと住人の避難誘導、済んでるよね?
やらかしておいて心配するのは、
やっぱり許されないか。
あたし、正義の味方みたいな事...したかっただけなのに。
「あ、ああ。つ、次は...」
「再戦の誓か。受けて立つ!! 傷が癒えたのならいつでも相手になってやろう」
何言ってんだ、あたし。
何誓わせてるんです、ガムストンさん!!
とぅー
とか、叫んで“月”の無い空へ向かって飛んでた。
ムーブ的にはカッコイイと思ったけど。
こればっくれた――だよね?
◇
本当はこの後。
シグルドさんと合流したかった。
でも、それを赦して貰えそうにない雰囲気が――あたしの背中に向けられた視線にあった。
ガムストンさんのは再戦の決意だけど。
さらにその奥、太守陣地の方からの憎しみだろうか。
ほら、暗殺者殺しは今や結社に肩入れする、悪党の代名詞みたいになってるし。
百歩といわず五十歩ほど甘く見たとしても“カネの為なら”今までの矜持さえ捨てるとか...
常識があればそんな不道徳なことはしないだろう。
でも、金色のサイクロプスは無法者だ。
ムーブとはいえ。
あたしの内々設定もだいぶ壊れたモノになったようで。
あわわわわわわ...
◆
大戦斧を構えなおす翁――齢~この人何歳だろう。
外見から推測すると、70代にもみえるけど。
脂ののった若い戦士であるシグルドさんの一撃を戦斧の幅広の身でいなすと。
力任せに吹き飛ばしてた。
終始驚くのは、シグルドさんだ。
羽織ってた毛皮を剥ぎ取った身体には、年季の入った皮革の胸鎧と肩鎧が。
傷んでいるように見えて、よく手入れされた代物。
商人してた頃でも丹念に綻びを直してたと見える。
「いい鎧だ」
口端に滲む血の泡を手甲で拭い。
カッカカと笑った。
面白かったからじゃないけど。
戦士としてのハートの入れ方とでもいうか。
シグルドさんは自分の胸を何度も、何度も叩いてた。
「最初に手に入れた時には、青銅の金属面が露わになってて...少し武骨なものだったが。ジャイアント・ボアや、ホワイトファング(ネームドモンスター)にワイルド・リッパーの毛皮で鍛えていったら、御覧のとおりユニークスキル付きの一品鎧へ様変わりだ」
自慢話というより人生を語り聞かせてるような。
老翁も後がないことは分かってる。
その証拠に――むせるように咳き込んだ。
壁際で揺れるランタンに照らされる老翁。
彼の顎が黒く変色してた。
えっと、それは...血ですか?