聖都の攻防 57 甘くない沙汰 32
一方、追い詰められてた結社幹部たち。
猟犬のひとりと、若い長だと言ったふたりが都合よく――あたしの放った天照の中に消えてた。
いや、ふたりとも致命傷は避けることは出来たけど。
戦闘不能とでも言い換えるべきだろう。
シグルドさんのバディでもある彼は、息が浅く短い。
左肘から下がなく、顔の一部がやや溶けて見える。
「大丈夫か?!」
魔界の住人の中でもとびきりの超回復を持つ一族。
人の姿である限りは、(確定的な)致命にも等しい攻撃に対しても、耐性があると言われてたけど。
ちょっと、そんな力は感じられないなあ。
「う、ん...正直、応えずらいな」
咳込んで吐くのが痰でなくて、体液なのだから深刻だ。
見えてないところでも半身がイカレてる。
そんな感じだった。
「下がってろ」
「ああ、そうさせてもらう」
シグルドさんは踵を返して――オークニーの大老を視界に捉える。
老翁の足元には、例の若い長があった。
彼自身も信じられない身体能力を発揮して、身をねじっての回避。
それでも直撃を免れただけで、火炎球の縁に焼かれてしまったようだ。
外縁は中心温度よりかは...ややマシな程度で。
あたしの場合は、天照だと思って放ってるわけだけども。
帝国出身者にすればあの技は、天盃だとする声もある。
メテオストライクよろしく、太陽を模した疑似天体の顕現。
この高温な塊を城壁に叩きこむってんだから、帝国式はそこが知れない。
帝国の軍神さまは、きっとあたしと同じ火属性使いなのだろう。
うんうん、そうに違いない。
自分で納得しておく。
ところで...
黒炭みたいになってて...ソレ、生きてます?!
「そちらも満身創痍か????」
「さて、な。これの忠臣に応えるなら」
持ってた大戦斧でひと薙ぎ。
黒炭になった若い長に笑みが浮かび。
引き攣った笑いだったけど、頭が明後日の壁に吹っ飛んでいった。
転がってきた人のソレも口元は緩んでるように見えた。
「優しいなあ?」
老翁も俯きつつ、微笑む。
優しいかって呟きが聞こえたような気がする。
「...だな」
「これも優しさ、そうだろうなあ」
野望はあった。
オークニー商会を興したときには、野盗だった時の古参も含めて50人ほど。
それらすべてに老翁は『家族だ!!』と告げた。
皆、それぞれに思うことはあるだろう。
でも、逃げ回る暮らしから先ずは抜け出す、次に富を築く、そして俺たちはいずれ国を手に入れる――なんて語り合った時がある。20年くらい前の事なので、世代交代もできた仲間たちもあるだろう。
結社“金脈”のはじまりの話。
シグルドさんと戦斧を担ぐ老翁。
対峙して分かる強さ。
《この爺さん、本当に人間かよ?!》
耳の後ろに汗が流れた。
八の字に構えた二刀流のガードをわざと外しているのに、なかなか打ち込んでこない。
逆にシグルドさん自身の方が、攻め込まれてるような気分になってくる。
「来ないのか?」
問われても、あちらも何もしてこない。
ただ、肩に担いだ戦斧を右に、左にと動かしてるような...
風が頬を撫でた感じ。
嫌な匂いがする。
下階からなら肉の灼けた匂いがするけど。
対峙している翁とは鉄の匂い。
唐突に頬を触る。
《指先にトロみ...いや、粘着きが》
不思議に思って触った指を見た。
思考が止まるってあるよね。
あたしの場合は、漏らした時とやらかした時。
借金しちゃった時も判定でファンブルするんだよなあ。
《血だと?!》