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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
20/538

ちょっと前の、地下闘技場で 1

 どんな街にだって闇みたいなところはある。

 王宮のある王都だって、下町みたいなとこもあれば、繁華街から歓楽街、ちょっときな臭いところとか。

 港街クリシュナにも、ね。

 港湾区画は、商人たちの事務所と交易品を一時保管する倉庫がある。

 港の外に停泊させた大型船から、積み荷が載せ替えられて桟橋を埋め尽くす。

 陽が昇る前から、日雇いの男たちは活動を開始する。

 男たちの手配は労働組合ギルドが請け負っていた。


 こちらは冒険者のそれとは毛色が違う。

 口利きが希望者をひとまとめに集めて、ギルドへ()()()()で紹介する。

 大半は、日ごとに顔ぶれが変わるものだから――『見た顔がある』なんて記憶に残りようもない。

 そうした日雇いの連中が溜まる場所と言えば、飲み屋か娼館かになる。

 飲み屋は奥で賭博も経営し、客の大半はここで文無しになる仕組みだ。


 そして、また。

 働き口を求めて、さ迷い歩く事に成る。


◇◆◇◆◇◆


 歓楽街の奥には半地下と呼ばれる地区がある。

 観光客が面白半分に訪れる事もあるので、治安が酷く悪いってこともない。

 が、やっぱりソコはアンダーグラウンド。

 安全なわけじゃあない。

 入り込んだ観光客が身包み剥がされたって被害届は出るもの。

 守備隊は「殺人でもない限り、手出しのできない地区です」と、本腰を入れない地区。

 ま、観光客の泣き寝入りで終わってた。


 領主と教区長とで癒着があれば、守備隊とギャングたちにも似た絡みはあるだろう。

 その半地下には名物とする“地下闘技場”なる娯楽があった。

 小遣い稼ぎなら、誰もが参加できるフリースタイル。

 大きな金が流れ、動くブラックスタイルの二通り...。後者は会員制だったんで、情報は少ない。

 ファイトクラブの跡地に人影。

 おかっぱのサラサラヘアに、朴訥そうな少年風の剣士がそこに立つ。

 祭りの後は――何日も開催されていないような静けさで。

 残る血の跡も随分と乾ききっていた。

「領主たちが拘束されたのは2、3日前の筈。...だが、この閑散とした風景はなんだ? まるでここしばらく何もなかったような...」

 ひとりごちてたら、奥の方で音が聞こえる。

 風が吹き込んで何かを叩くようにも――。

 とりあえず、ポール・ロイドは最深部へと歩き出す。


 地下闘技場への道は複数あった。

 協会の調査員がそれぞれの道からアプローチして、大広間へと導かれた。

 ポール以外は未だ、大広間での調査中である。

《何を探す? 目につくものであれば、何でもだ》

 目的がなく、アテもない訳じゃ無い。

 “妖精の粉”の正体である。

 領主たちは、うわごとの様に『舶来の薬を用いて』と唱える。

 誰が持ち込み、誰の指示かは口にしない。

《記憶の改竄は考えられる...秘密結社をほのめかし、末端が末端と思わない何かを施す...》

 物思いにふけりながら歩いてたが、

 ポールが視線を上げたところで、音のするところから逃げる影をみる。

 咄嗟だったが...


◆◇◆◇◆◇


 駅馬車の案内係だった者の変死体がみつかる。

 銀貨を握りしめた形で、半魔化してたというのだ。

「これは例の“粉”ですか?」

 遠巻きに死者をみているのは教会と、協会。

 吸い込まないように対策は取っているけど――「ちょっと待って! なんで、あたしだけ防護マスクに手袋とか、えっと装備無しで死体の傍へ引きずり出されてるんで?!?!」って、頭を抱えたくなる状況。

 これ、人権問題。

 いや、エルフ族として正式に抗議したいと...

「姐さんは、耐性持ちですし」


「いや、納得できない!」


「困りましたね」

 神父さまが目配せすると、わりと重そうな鞄が放り投げられた。

 協会側もうっすい表情で監視してるんだけど。

 何かに諦めた様子で、

 やっぱりそこそこ重そうな鞄が、教会の横へ放り投げられた。

「えっと?」


「そこまで取りに行くのは、姐さんです」

 ちょっと待って。

 考えさせて...

 金をやるから、死体検分を任せる――は理解した。

 けど、報酬、報酬の受け取りって手渡しじゃ...

「セルコットさんに耐性があっても、その手は触れません」

 同じ空気も吸えませんって事じゃんか!!

 それは、差別ぅー

「姐さんが川で禊したら、ちゃんと慰めてあげます」

 むぅー。

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