聖都の攻防 55 甘くない沙汰 30
太守兵たちの置き土産から手頃な長剣を握って。
手に馴染むというには、少し柄が長すぎるしやや重心が、切っ先の方に偏っているようにも思える。
長剣だと思ったけど。
よくよく見てみると、あたしには両手剣にも。
いや、見渡せばそこらかしこにと、落ちている剣でも良かったんだけど。
やっぱ咄嗟に掴むのなら――「我が前に敵は無し、我が背後は焦土のみ...我を封殺することは出来ず、この一歩にすべてを賭ける!!! 帝国式剣之一法・天照」
ドーセット帝国の武術を収めた“七法”は門外不出という事は無い。
かの国の認可を得た兵法家が各地で教えているので。
気が向いたら師事することもできる。
まあ、それなりの実力が伴うのだけど。
あたしの場合は、各地に転戦しているうちに自然と、帝国式の所作に振れることが出来ていたというか。
ま、気に入られたっていうか、そんなとこ。
ゆえにヒルダさんの初見殺しだって対応できたわけだ。
で、剣之一法・天照は本来、幻術ではじまり幻術で終わる“光属性”の奥義みたいな性質があった。
対峙した武芸者から“光”を奪い、混沌へ叩き落す。
暗闇の中にある対象者に、それまでとは逆に強烈な光を当てて、視力を完全に消失させる。
そんな補助魔法込みのサシでしか成立しない、幻術の剣。
あたしも(道場主から)喰らった対象者の一人で。
耐性異常の無効化があっても、非常に眩しかったことを今でも忘れられない。
じゃ、火属性しか使えない...あたしの場合はどうか。
なんてことは無い“リーズ王国式抜刀術・炎閃”のソレそのもだ。
両手剣なみに重量の偏りのある長剣の切っ先に、まるで太陽のような炎の塊を顕現させる。
これを念じて突き出すだけの簡単な作業。
「ちょ、ま、待て!!!」
しなる槍の刺突を狙ってたガムストンさん。
踏み込んだ瞬間、回避不可の帝国式の理不尽をモロ受けしたことになる。
◇
伸びてたヒルダさんは知らない。
が、太守陣地から目撃してた師匠は、帝国式の亜種だと勘付いたようで。
彼がミロムさんの尻肉を揉みながら...
「あれは、帝国式が剣之一法・天盃。対攻城戦用の奥義だった筈だが...この大陸にいや、軍神以外の使い手がいるとは知らなかった」
なんて告げてたとか。
ま、これの顛末は片目をひどく充血させて戻った頃に、ミロムさんか聞いた話だ。
後輩の方は、ちょっと気合が入ったようで。
「ミロムさん!」
「はい?」
やや拍子抜けするような声で返答し。
「当方に剣術をご教授お願いしたい」
こんな言い方しかできない後輩だけど。
根は凄くまじめでいい子だ。
あたしたちと同じ道に入るのは良いんだけどね、その動機が――「当方の手で必ずや、姐さんの仇を盗ると決めたんです!!!」って事なんだけど。あたし、死んでないし殺されるつもりも無いんだけど...。