聖都の攻防 52 甘くない沙汰 27
エントランスホールに、太守兵の姿は無い。
気絶して動けなくなったヒルダさんも、屋敷の外へ運び出されて。
あたしのエネミーサーチには、シグルドさんらが結社の実力者たちを追い詰めるシーンが脳の片隅に見える感じだ。もしも、この鉢合わせがスムーズに「今宵はひと時の間だけ、敵味方に関係なく手を取り合って共通の外敵に当たらん!!」なんて纏め上げていれば、だ。
結社に迫ってたのは、あたしたちだったかも知れない。
そう。
シグルドさんらを出し抜いてだ。
さて、この状況は。
「俺の拳の前に余所見とは!!」
余所見をしてた覚えはない。
そもそも、ガムストンさんを相手にだ。
彼のような一流冒険者はそこらへんに転がってる魔獣や、猛獣とは別の次元にある。
気が抜けるはずはない。
それでも、あたしが余裕たっぷりに見えたのは――えっと、何故?
「誰がだ!」
このムーブでのあたしは言葉の端々に“悪意”がある。
だって、そうであれと。
碧眼のハイエナが設定したからだ。
ガムストンさんの右ストレートに合わせるように。
殴り返した。
あたしの拳には炎が乗る。
火属性の魔法しか使えない、パッと見ならばとんでもなく苦労しがちな、魔法使いだ。
でも、全属性に高い耐性と適応力がある点はメリットで。
神様からの贈り物だと言われた。
あ、いや。
炎が効かない魔物と出会ったら、即OUTなんだけどね。
そこで、あたしは躊躇なく帝国式の門を叩いた。
ヒルダさんの知らないとこで...門下生になる。
ガムストンさんの伸ばした腕に、あたしの腕が触れる。
硬い外皮に覆われた魔物は少なくはない。
むしろ、そういうのが殆どだと冒険者組合で知ったくらいだ。
魔法使いになる道では、
マナの取り込み方や、或いはオドの使い方を学ぶ。
魔法使いとは自分勝手な生き物だと、知ることから始まると言ってもいい。
で、冒険者組合――ギルドでは、外皮の攻略方法について当たり前の様で、あたしには難しい“耐性”について講釈してくれるわけ。
じゃ、あたしならどうしたのか。
帝国式七法の拳闘術を極めることで解決。
火属性によるスリップダメージを対象の外皮内側に叩きこむ、だ。
ガムストンさんの腕鎧が熱の膨張で弾け飛んだ。
右の手首から肘に掛けた腕が痛々しいまでの水膨れに。
あわわわわわわ...
ちょっと火力を間違えた。
拳がすれ違うだけで、彼が大きく仰け反る。
「逃げているのは、お前の方だろう? 木偶が!!」
ああ、言葉が悪い。
ごめんなさい、ガムストンさん。
あたしじゃないんですぅ~
◆
さて結社の方は、シグルドさんを含めた一組の猟犬に睨まれてた。
猟犬の獲物は腕に隠れるような身の細い小剣で、これを二刀で八の字に構えている。
利き腕が僅かに下がっているのは、たぶん彼らの癖だろう。
「“金脈”の翁殿はいずれか?」
柱に隠れてやり過ごしてた商人は、シグルドさんに引きずり出されてた。
運が良ければ逃げれるとも、考えてたけど。
今、命の灯が消えたようだ。
「どうあっても殺すようだな」
「ええ、残党として残られても、世界にとって一利なし」
言いきられると、返す言葉もなくなる。