聖都の攻防 51 甘くない沙汰 26
その願いは徒労に終わる。
先ずは、頭から滝のように血を流すヒルダさんが止まらない。
この子は暴走する機関車のようなもの。
一度、フルスロットルになったら、止まることを知らないみたいな。
「こん、のぉぉぉぉぉ!!!」
振りかぶった大剣の攻撃は単調すぎる。
かといって投擲とか、放り捨てるとかも予測範囲だから“後手”でも対処が可能だ。
「わたしはー!!」
わかってる。
ヒルダ・アインバックス皇女殿下。
13子目の末姫だ。
帝国の若き将軍でもあり、剣豪でもある。
素直で、無欲なお転婆娘――それが彼女の素でいいところ。
投げた大剣の直下から、小剣の二刀流を構えて潜り込んできた。
インファイトに持ち込めば勝機があると考えたんだろう。
そういう帝国式の使い手はよく知っている。
だけど。
あたしはそのすべてを返り討ちにした。
帝国式七法のうちいくつかと対峙して、打ち漏らしはあれど負けたことは無い。
まあ、あれよ。
あたしのもとに“神の賽”があるうちは武運は、常にこの頂上に輝く!!
その場で踏み込み、脚力で身体が浮くような圧をかける。
魔法ではなく単純に武力。
大剣の直線軌道なんて避ける必要はない。
そもそも、あたしには当たらない。
獲物は突進してくるヒルダさんだけ。
「来い! 帝国の獅子よ!!!」
もっと親しく呼んであげたかった。
えっと...
デカパイ娘とか。
肉まん娘とか...
「ふべっ」
脚力の圧が強すぎた。
踏み砕いた床石が浮いて彼女はそれに激突して沈黙。
脇をしめてコンパクトに飛び込んだのにだ。
さあ、劇的な対決シーンだったのに...あっけない終幕だ。
「む?!」
最後に彼女の乳は揉ませてもらおう。
気絶して、顔面殴打のヒルダさんの乳を揉む――ちくしょーやわらけえなあ。
◇
さて、周りをもう一度、見渡してみよう。
あたしの脚力によって踏み壊した床は大惨事である。
この状態でよく建物が建っていると、感心するような惨状となってて。
この損害は周囲、数ブロックにまたがる。
他の建物は半壊、あるいは全倒壊の状況。
太守陣地も大いに揺れて、師匠が太守とウイグスリー卿を抱えて避難してる。
ミロムさんの方は、紅茶を零したとかで凹んでる様子だった。
「未だ、続けるか?」
心の平穏は未だこない。
むしろ、大惨事に内心、気が気ではない。
「なるほど...(兵士の海から生還した、ガムストンさんがギラついた眼光をこちらに向けてくる)とんだ化け物が埋もれてたもんだな。で、金色の片目持ちの冒険者殿は何者か?!」
後輩の方は、シャンデリアに再び避難しているようで、ちくちく視線を感じる。
が、襲ってはこない様子だ。
むしろ実力者であったヒルダさんが撃沈したことで怖気づいたか。
それならば重畳。
あとは、この人か。
「この遊びにはいつまで続けたらいい?」
よし、このムーブでの強者フレーズが吐けた。
ここで畳みかければ...
「お遊びか、ふふ、舐められたもんだ」
「え?」
「さあて、身体も温まってきた。殴り合いに付き合ってもらうぞ!!」
えー!!!