聖都の攻防 49 甘くない沙汰 24
えっと。
この戦いはそもそも...
秘密結社のひとつ“金脈”と聖都の戦いだった筈だ。
あたしこと“金色”と“ヒルダと愉快な仲間たち”の戦いでは無かったように思う。
だが、こうなった。
運命とは数奇なものだ。
後輩についた嘘が、あたしを今苦しめている。
新年間近な冷たい夜。
帳も降りて、見上げれば細い尾を引いた星が、南の空へ流れていくのが見える。
ああ、あれ流れ星か。
願いは...お金欲しい。
「余所見!!」
ヒルダさんだけ血まみれ。
「誰がだ! 誰が余所見など」
口調が男性っぽいのは“金色”であるが故。
ロールプレイをするにあたり、かつてのビジネスパートナー“碧眼のハイエナ”と煮詰めたのが、そもそもの始まりなのだ。
◆
あれは2、3年...。
あれ、もうちょい前かな。
エルフの1年感覚って、無い、無いな。
すこ~し前のことだ。
盗賊狩りだけでは、飯が食えなくなった頃。
悪徳斡旋業者である“碧眼のハイエナ”は、ある仕事を掴んできた。
「大陸から某王国の役人が来られる」
あたしは普段通りの、間抜けなな表情で聞いてた。
そもそも、表は冒険者――街道沿いの魔物や害獣の駆除が当たり前の“アイアン・チョーカー”で、依頼の掲示板の雑用を多く引き受けてたサイドの者。
裏稼業にしても、他人に言えるようなものじゃないし。
また、この人は突拍子もないことをって思って聞いてた。
「身が入ってなーい!!」
根性注入っていう名の制裁を身で食らう。
頬が腫れるほどの平手打ち。
「か、顔はや、やめて!!」
下宿先には後輩が待っている。
こんなに腫れた...
「気にするな、お前の特異体質でじきに腫れは引く。まったく便利な身体だよな?! 俺もかなりのものだが、こういう体質だとどこまで責めていいものかと、マジで悩むよ。大概の苦痛はキレイに消えてなくなる。何度も新品壊してる気分で、ああ、気持ちい」
やめて、やめて、こわい、こわい。
盗賊ギルドにあった折にスカウトされた、冒険者ギルド地方支部長。
彼のような実力者だからこそ、こんな荒くれた地で冒険者の秩序が守られてる。
そんな考え方もできる。
「ま、セルコットが本気で怖がっちまったから、俺の方も気が萎える。ぼけ~ってした表情から目が覚めるような一撃を入れた時のゾクゾとした高揚感が溜まらんからな。この変で俺の性癖は終いだ。で、話を元に戻す...例の役人は、この国に来るのはバカンスで来られる」
「じゃ、遂に!」
「いや、お前が思ってるもんじゃあねえ。てか、アイアン・チョーカー引っ提げた護衛なんて、依頼主の品格とともにその人物の財力の無さとか、いろいろ問題ありまくりじゃねえか?! カネがなくとも見栄で、そこはシルバー・チョーカーが呼ばれるよ。お前さんにそんな仕事は一生来ねえ!!!」
あたしの目が訴える。
裏稼業の功績だけでも少し。
ギルド長として手を回せば、あたしの階級の更新は可能じゃないかと。
「ダメだ、ダメだ。俺は言ってるよな、毎度のことだからてめえの柔らかそうな、その頭に沁み込ませてる“借金返済は絶対だ”って。表稼業も裏稼業でも毎度、あっちこっち壊し過ぎなんだよ! 豆腐か?! その頭は豆腐か!!!」
額にデコピンが。
何度も、何度も弾かれる。
ああ、今にして思えば、アレはあたしを繋ぐ留めるための方便。
ギルド長にすれば、実力シルバー以上の冒険者が下位で留まるための口先。
彼の手駒だったわけだから、手放すはずもない。
「護衛じゃないなら、暗殺?!」
「どうして、このエルフは極端で物騒な判断をしちまうかねえ。バカか?! この国の役人でも、そこら辺の犬猫と一緒にするんじゃねえぞ。ギルド総出で犯罪者を、捜索しなくちゃならねえ!! 殺人っつうのはな、お尋ね者以外は大概めんどくせえんだ。(腫れる暇も与えず、パパパンと頬を叩かれ)役人がひとり死んでみろ、国内の者ならば国中が騒がしくなるし、動くのは魔法剣士っていう怖い連中だ。で、国外の要人なら国際問題に発展しかねない」
この辺りで、あたしの意識が飛んだ。
難し過ぎだったんだわ。
◇
あたしが覚醒すると、
その横で、細い紙巻煙草を吸うギルド長があった。
「よう目覚めたか? この分だと午前様になるから、部屋でふてくされてる修道士の娘に、誤解を与えない言い訳でも考えてろよ」
ギルド長は腰巻ひとつで、陽光が差し込む窓に立つ。
馬並みが腰巻越しに影で映りこんでて――「?!」
「やってねえよ!!! 気絶したお前さんをベッドに運んだら、その勢いで潮吹きかけられたんで...このありさまだ。...っだが、セルコットには背景は重すぎだな。あの話には、ちと影がある」
「影?!」
ギルド長は向き直り、近くの椅子に腰かけた。
ああ、見える。
モザイクのありなしに関係ない、凶悪な竜のそれが。
初回投稿は22年の9月末。
そこから、2日おきごとに投稿するというスタイルで、今まで続けてきました。
今や話数は約193、文字数にして29万3千文字ほど。
評価者3人、ブクマ3人という零細でありながら、更新ごとに読みに来てくださいまして本当にありがとうございます。
なんとなく続けてこれたのは、やっぱりPVという分かり易い評価だと思います。
次回は新年を跨いだ1月2日になりますので、ご挨拶はその時になるかと思います。
今年1年は、この作品の御かげで飛躍できたように思います。
正直、メインのように毎日書かないと浮かばれないんじゃないかって...
凹んでた時期もあるんですけど。
それでも、日間最高216PVの後、10位まで3桁に塗り替えれましたし。
月間も1241PVと4桁を記録できました。
気力は読者の皆様から頂いて、今はそれを返す事のみ。
来年も変わらずの御贔屓がありますよう、この作品の生存証明として書き続けていきたいと思っています。
さんぜん円ねこ