聖都の攻防 47 甘くない沙汰 22
「戯れもソコまでにしろ!!」
柱にもたれ掛かる、あたし。
おおうよ、暗殺者殺しの暗殺者ムーブ。
「何者!!」
太守公の兵士たちと、ヒルダさんの動きが止まった。
さあ見よ、刮目せよ!
見たことはなくとも、聞いた事はあるだろうーっ!!
この金色の~
「おまえかー!!!!!!!!」
後輩が敵意むき出しで氷の刃で襲ってきた。
小石に躓いて膝から地に伏せなかったら、あたしの首は胴と永遠のバイバイをしてたかも。
ちょ、問答無用なの?!
「ま、待て、はな...」
「金色の~が~!!」
後輩があたし...いや、金色を狙う理由がひとつだけ心当たりがある。
あたしのプレイは“神の賽”によって決められる。
これによって運命が決すると言っても過言じゃなく――時にぞろ目の出し過ぎでファンブルが出ちゃうときも、無くはない。この時には加護“状態異常”が無効化ではなく、耐性があるに置換されるようなのだ。
で、その日もファンブルのせいで怪我をした。
珍しい事なので後輩には――「金色のサイクロプスという暗殺者の邪魔をしたようで、返り討ちに合っちゃった」と、あたしはあたし自身を身代わりに逃げた。ミロムさんと再会する以前は、後輩が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたものだ。
その時の嘘のツケが今、ここに回帰。
マジかよ!!!
「ま、待て待て待て」
「待つかー!!」
館の柱は太かった。
が、これが奇麗に両断されて氷づく。
おお、マジかよ?! 切った切断面に凍結の魔法が乗るとか、どんな殺意だ。
「ふんすー、腕を掠れば腕が腐り落ち。鎧を掠れば胴から凍傷がもとで死に逝く、ただそれだけの当方はとてもやさしい...」
やさしい、か。
館の門を潜り抜けると、魔術“迷いの森”が発動する。
仕掛けとしては単純だけど。
普段は修道女として、都市や地域を股にかけて調査している後輩。
彼女がその皮被りなロールを棄てたら、脳筋なみに猪突する傾向にあった。
そう、彼女が条件の門を破壊したのだ。
やらせたのは...
たぶんシグルドさん。
◇
魔術による“迷いの森”結界のために、オークニー商会の私兵たちは、一階のエントランスホールのどこにも姿がない。それだけ信頼を置いた仕掛けであることは伺えるし、仮に兵を忍ばせておくと――私兵も揃って二次遭難しかねない地雷でもある。
メリットがあればデメリットがあるのが常だ。
何事も万全とはいかないもので。
さて。
あたしに...いあ、あたしであってあたしでない。
金色のサイクロプスを目の前に、だ。
後輩の鼻息が荒い。
「なるほど戯れを、ですか。...そうですか!!」
用具室を何度も開けては、締めの繰り返しのヒルダさんが怒り心頭である。
タネに気が付けば罠に掛かった自身の汚点を拭いたくなる。
「いや、戯れと言うのはそっち...で、ではなく。でね?」
あれ?
なにこの気まずさは。
あたしのエネミーサーチのスキルでは、直上の階がどんどん制圧されていく感じがする。
この動き、手練れが2、3人いるようだし。
ひとりはシグルドさん?
「戯れと言ったキサマは余所見とは、いい身分だな!!!!」
豪快なひと振りがあたしを襲う。
暗殺者という実力のある者ムーブ中だから、紙一重に回避してから。
「ふん、温い」
なんて自分でも耳真っ赤なセリフを吐く。
ああああ。
違うんです、違うんですー!!