聖都の攻防 45 甘くない沙汰 20
オークニー商会館の睨み合いも他の戦場と大差なく簡単に開始した。
ヒルダさんによる特攻で、だ。
「ほら、ちょっと浮いたじゃないですか!!!」
ゾディアックって名の冒険者は、世界のランキングでいうと、限られた上位者を指す。
例えば、チョーカーで色分けされているヒエラルキーに対して、より細かく等級があるとしたならば――ダブルSいや、トリプルS級とか。
まあ、そういう扱いになってた。
細かいんで割愛する。
「割礼する?! そりゃあ、痛そうだな」
ガムストンさんがあたしの背後でボケてくれる。
いや、いいんだよ。
そういうボケは歓迎だけど。
「私、そういう卑猥な話は好みません!!」
ヒルダが大剣担いで陣を引き払おうとしてる。
いあああ、止めて止めて!!!
最前線より前に出たら、馬上弓の雨が降り注がれる。
いくらあの子でも...。
「セルコットさんは誰の心配をしてるんです?!」
凶悪な矢じりが降り注ぐ地に立ったヒルダさん。
大剣の一振りを見せる。
宙に炎が広がってた。
ああ、魔法。
「帝国式に背中を見せる戦場は無し!! 何処かの戦場もすべて前のみを見て進むものなり!」
帝国式の口上。
口遊むと、自然に勇気が湧き上がるような効果があるらしい。
と、いうか。
うん、やせ我慢のような。
「ここまで来て、面白そうな戦場。大剣を振るわない...そんなのは私の生き方には無いものなので!!ゆえに、兄上さも大鎧の御仁も等しく、邪魔をするというのならば...私の敵ですのであしからず」
宣戦布告した。
ガムストンさんは殴られた腹をさすり、
「いや、帝国式ってのは全く厄介なもんだねえ」
肩を解しつつ、
「ローゼン殿の妹かい? 気が強くてケツの大きな娘は俺好みなんだけどさ...」
本人に聞かれたら、
「いや、ヒルダが好まなければ抱く以前の問題だ。紹介もしないし、死にたきゃ勝手に死ね!!」
師匠の毒舌が。
むさい男どもが、妹の尻を追うように戦場へ。
さて、こうなると――だ。
太守陣地に残ったのは、シグルドとあたし、ミロムさんに後輩。
うーん。
なにこれ?
「ミロムさんは?」
彼女はメイド姿のままだ。
しかも獲物の帯剣さえしていない。
「この可愛いドレスに似合いません」
まあ、確かにね。
スカートの丈は長く、合わせた黒くなめした革靴にブロードソードは似つかわしくない。
いうて野蛮な拵え物と言うか。
「その通りなのです! 袖のフリルレースは引き抜くと、ハンカチとして使えてとても便利!」
貴族の間で流行の拵え物。
大陸では最近、テーブルマナーってのが流行し始めた。
とは言っても、基本は大皿の上から食べたいものを取って食うって流れは崩れてない。
今まで口を拭ってた袖から、ナプキンに代わり。
脂ぎった手を服で拭ってた行為から、フィンガーボールで洗う事にした。
食事前と、食事後にだ。
「――ですので、このドレスが汚れるお仕事は、本日、致さないことにしたのです! で、わたしの応援はセルコットさんに向けることにしました。ご武運を!!!」
って、押し出された。
動き出した兵隊たちの方へだ。
え、ちょ...まって。
心の準備が。