聖都の攻防 44 甘くない沙汰 19
倉庫街の戦闘に続き、邸宅のある居住区でも戦闘が始まった。
居住区に回された都市警備隊の兵士は、完全武装のが20人。
軽装備のが30人という構成で、片手剣と丸形盾を装備していた――これらの配慮は、居住区にある館の住民が、素直に投降に応じるであろうと打算してのことだ。兵士の姿を見せれば、怖気づくのではないか、とかそう、考えていた。
まあ、ほかには。
居住区の方は騒ぎを大きくしたくなかったってのもある。
それぞれの屋敷感覚は広く、大きな通りで区切られている。
仮に飛び火したとしても、ボヤで済むかもしれない。
太守の甘い見積もりがそこにあった。
◇
内側から吹き飛ばされた扉の下敷きになった兵士が死んだ。
蹴り飛ばされた破片などで串刺しになったのではなく。
ただの板切れとなった、扉の一部に真正面から捌き切れずに受けて死んだようだ。
また、扉だった板を抱いた兵士の肉塊に、巻き込まれて複数の軽歩兵らが負傷してもいる。
二次被害の方がちょっと深刻だった。
さて、こうやって数を減らされた都市警備隊だけども。
太守に魅力がなかったら、早晩にも瓦解していたかもしれない――「騎士、兵士諸君に告ぐ! 槍を取れ!」馬上にあった指揮官が、兵士たちと同じ地に足をつけた。
戦友と肩を並べる、いい響きだし。士気も自ずと上がるものだ――「...剣の柄を我が胸前に、我、ここに誓わん! 常に諸氏より前で戦うと!!!」鼓舞挙げは成功している。
100人隊の隊長だった将校が、いつもの半分の兵力を率いて居住区に立つ。
50人たちにも不安はあった。
馬上の将校が臆病風に当たると、さっと逃げることがあるから。
平民を囮にする貴族は少なくはない。
だけど、杞憂に終わる。
各人の背中をバシバシ叩いて歩く隊長。
「諸君らと同じ平民出身から兵卒あがりだ。もっと気楽に構えろ!」
肩の鎧が邪魔だけど、揉んでくれてるのは分かる。
硬く縮んでた心が解けるような、感じ。
◆
居住区でも「戦闘が開始されました」と、告げられた。
太守の本陣は更に後方へと退くよう、進言される。
魔法詠唱者協会からの助っ人は、各地に散っている。
剣士ポール君は居住区へ。
暗殺者のトッド君は倉庫街へ。
最後に巨躯の完全武装男、ガムストンさんは商業区に。
「それぞれに戦端が開いたのだとすると、敵方さんらの方が早くに、布陣し終えてたって事で分かり易くねえか?」
ガムストンさんの言葉の裏には、裏切り者の示唆がある。
シグルドさんも眉の毛を弄りながら、
「結社のひとりが捕縛されることは織り込み済みだったとも...とれる」
太守陣地には濃い男たちが集まってる。
2メートルちかい巨躯で、風貌ともに鬼人を彷彿とさせるガムストンさんからすると、周りのシグルドや師匠、ウイグスリー商会の私兵らは子供にでも見えるのだろうか。
まあ、威圧感は素晴らしく、確かに子宮が疼く感じがする。
小首をかしげながら、ヒルダさんが歩み出る。
師匠に「お前の出番はない」とか押しとどめられながらも、
「私から一言いいでしょうか!?」
見下ろす大男。
見上げる気丈な野蛮な姫。
「ふんす!!」
気合とともに拳で語る。
ガムストンさんの巨躯が僅かに宙に、浮いた気がした。
いや、気のせいではない。
浮いたのだ。
鎧の内側はジンジンと鈍痛が響く。
「驚いたな!!」
巨躯が浮くのも、浮かせたのが女子っでのも初めて見た。
ああ、ヒルダさんはミロムさん並みの怪力だわ。
「えっと...セルコットさん? 今、何か良からぬこと考えました???」
メイド服のままのミロムさんが、あたしの背後に立つ。
これだよ、これ。
暗殺者殺しのあたしにさえ悟らせない、殺気殺しの達人。
こええよ。