聖都の攻防 43 甘くない沙汰 18
倉庫街では間もなく戦端が開かれた。
街の中でも外れにあるとは言っても、それは方便でしかなく。
その奥に広がるのは未開拓・未整備の貧民街だ。
この地域の家屋と言うと、そうだなあ。
板張りに動物の糞と土を混ぜ込んだもので、塗り固めていて。
とても衛生的とは言えないものだったし、何より藁ぶきとも言えない何かをとにかく屋根代わりにしていたような、そんな貧困まるだしの世界。
聖都には来たものの。
大都市特有の人の弱みに付け込んだという、盗賊ギルドらにいいようにあしらわれた、弱者がソコに棲んでいる。
だから、かなあ。
目が死んでるような人々が多い。
その日だけでも生きられるほどの賃金があれば、それこそ隣の人さえも殺せるようになってた。
そんな未開拓の貧民街をも都市の守備隊は敵に回していた。
いやね。
守備隊の人たちも、だ――「ここは間もなく戦場になる!! はやく。キミたちは、はやく安全な所へ避難するんだ!!!」って警告はしたのさ。それこそマニュアル通りの対応ってやつを。
でも、彼らがどこへ逃げられると思う。
あたしは誰かの味方をしたいわけなじゃにけどね。
貧民街の若者らしき者はその場で石を拾い上げると、守備隊へ投げつけてた。
その石礫は盾によって弾かれたけど。
まあ、公務中なので。
それは罪である、犯罪である、法執行者への冒涜であると。
◇
そこへ例の言葉が叫ばれた――「太守軍が火を放ちやがった~!!!」ってね。
誰が助けてくれるかは重要じゃない。
誰でもいいから、仕事をくれるヤツと自分たちの貧民街を守ることに関しては団結する。
当然だよ。
それが人だもの。
仕事をくれた豪商が貧相な街に教会を立ててくれた。
宗教が支配する都なのに、貧民だという事で教会の一つもなかったところに私費で建立してくれた。
その教会が燃えている。
火の勢いが強いから、悪意によるものだとすぐに分かる。
「こいつらは敵だあー!!」
って叫ばれるのも、時間じゃなかった。
結社“金脈”の元賞金首と、貧民街とはいえ聖都の市民を敵に回した、守備兵1000人以上は苦戦する。
武器が使えない縛り。
1000人隊長は各100人隊長へそう下知したんだけど、あちらは殺しに来ている。
殴るとか蹴るなんかで応戦するんだけど、素手だった市民にこん棒が渡っていく――商会の連中が蔵から武器の供出を行い始めたからだ。最初はこん棒、次にショートソードになって、いつの間にか冒険者顔負けの重武装だ。
「さあ、みなさん“重税”を課すばかりのお役人さんを今、ここで!!! わからしてやりましょう。俺たちは搾取されるばかりの弱い家畜じゃないって、ねえ」
焚きつける、焚きつける。
ボヤは大火へと瞬く間に燃え広がっていく。
◆
「ご報告!!」
伝書鳩の世話係が、目の血走ってるハトを握ったまま飛び込んできた。
ぎゅっと握ってるから、ハトの方は苦しいだけである。
なんというか、えっと可哀そうだから...
あたしがそろ~りと、飼育士の傍へと歩み寄りハトに手を伸ばしたところで。
ハトは息を引き取り...
飼育士からの「寄るな雑種がっ!!」みたいなプレッシャーを飛ばされた。
あ、う。
「握りつぶしたハトだが?」
「それよりも」
太守もあたしが助けたかったハトに気が付いてた。
「倉庫街の戦闘は芳しくなく、防戦に回ってるとのこと」
さらにぎゅっとハトが握られた。
ああ、中身が出そう。
「倉庫街で戦闘だと?」
あ、うん。
そこが気になるポイントになるか。