聖都の攻防 40 甘くない沙汰 15
ラグナル聖国の首都である、聖都のつくりは古風の地を行く。
かつての文明が履かせた石畳の痕跡を上手く、都市機能に取り込んでいるつくりとなってた。
例えば、主要な道は街道から引き込んでいる。
交易路や、村や町をつなぐ街道は山道と大差がない。
整備をしないと、路肩の草が地肌の道を覆い隠してしまう――道の舗装などは未だ、考えに至らない文明レベルだと思っていい。
ゆえに、馬車が使えない旅人は専ら歩き旅が常識である。
どこか前に語ったけど。
乗合馬車の運賃ってのは、馬の頭数で違いが出る。
だって、馬も生き物だよ?
メシを食わせなきゃいけないし、休養とかいや、街に着いたら厩舎に預けなくちゃいけない。
その預け代なんかも、乗車代に含まれる。
まあ、あれだよ。
馬車を使えるヤツってのは、ブルジョアってこと。
◇
さて、石畳の効果についてか。
歩き旅の人々が苦しんでいるのが、足元の道。
どこへ行っても不整地ばかりだからね。
聖都でも不整地のままは未だ、いくつも残ってるし。
その殆どは、整備不能地区――つまりは、貧民街なんかになるかなあ。
整備された道の上を歩くのは、苦痛から解放だ。
小さな石でも、上に乗り上げてしまうと足首を、右に振られ左に振られと動かされる。
これが適宜に繰り返されたら。
苦痛と一緒に肉態的な疲労は高まる一方。
メリットは大きいけど。
デメリットの方はスリップ事故の多発。
ここで再び、古代の人々は凄い――って文献持った学者が叫んだらしい。
古代人に倣い車輪用の轍溝を用いて、このスリップ事故の回避につなげたのだ。
幸い、聖都でも石畳が敷けているのはごく僅かなので、轍溝も長大なものでは無いらしい。
これらは金が掛かるらね。
さて、その道に今、金属のクリーブが擦れる音が響く。
ガチャガチャなんてもんじゃなく。
まあ...
ジャリジャリってな音色のように思えたね。
この集団は、太守公とその守備隊。
あたしと仲間たちを巻き込んだ、結社と戦うための戦友たちってとこか。
◆
軍靴の足音が黄昏時に響く――オークニーの翁は太い首を捻る。
鈍い音が響く。
集会で集まった者たちも私兵を携えてた。
この地が決戦になる事は分かっているからだ。
臆病風に後ろ髪を引かれた者たちは逃げた。
が、太守が動けなくとも彼ら見逃すはずもなく――「街に放っていた小鳥たちにより離脱者すべて“狼”に狩られたよし」――天井裏からの声。
盗賊ギルドから雇用した者たちの最後の仕事だ。
これ以降、彼らは結社に加担しない。
「諸君、最後のようだ」
大老が立ち上がる。
毛皮を脱ぎ去ると、金属の胸当てに物騒で兇悪なガントレットの装備。
ジジイの癖に大層な重武装だと思わせたが、まま様になってもいいる。
「くそー、これで終いですか...大老?」
各々商人たちが、舌打ちと悪態をつき始める。
やや柄が悪い。
若い長の方は面食らってるんだけど、うなじを掻きながら察した。
金脈の男たちは猫を被ってたのだと。
「聖都に根付いて20年。各地で散々暴れまわり、首に賞金も賭けられた我らだが。まあ、結社を次代に残せなかったのは...流石に心残りでは、ふっ」
嗤う。
雑談みたいな集会が、今はピリッとした熱がある。
大老の立ち絵だけで、皆が奮い立ってる感じ。
ちょっと、これ...全面対決になるんじゃ?!