聖都の攻防 39 甘くない沙汰 14
上位組織である“アメジスト”からは何もなかった。
彼らが優しい者たちであれば――先ずは“聖騎士”を寄越して、この計画が破綻したことへの謝罪か何かの追求が行われたであろう。
が、その優しさは無かったのだ。
そもそも糾弾してくれるわけがない。
総長曰く――「好きにやるが良い」――と、言い放たれていたから。
その時までは、肯定的な反応なのだと思ってた。
が、二度、確かめるように「それで、よいのか?!」と尋ねてはくれなかったのだ。
ただ――「好きにやるが良い」――だけだった。
オークニー商会の翁は、背もたれに多くの毛皮に覆われた椅子に背を預けて深く沈み込んでいる。
結社最後の集会に臨みながら。
◆
十本の指のうち、残ってる方を数えた方が早い男が項垂れている部屋がある。
芋虫のように太い指には、幅2センチメートルほどの明暗分かれた痕があり、これがかつての指輪の痕跡だとはちょっと判別しにくかった。
シグルドとあの場で名乗った猟犬が、牢屋に足を運んだあたしに教えてくれるまでは――。
「強情な奴だと思ったが、やはり木っ端では知っている内容にも限界はあったようだ」
それならそれで、この拷問はやり過ぎだと。
が、シグルドは「否」と否定した。
「それでも金脈らは、人々を苦しめた。人種や世界は違うにしても、奴らの組織とその上の組織もまた、いろいろな種族に理不尽を与えてきた。故にこれは因果応報というものだ!!!」
正しくはその通りだろう。
そう、正しくは。
だけど、それは...
血で黒く染まった皮手袋をはぎ取り、
シグルドは、あたしの肩を優しく揉んだ。
師匠ならば、差し出した頭をもみくちゃにかき乱していくところだろう。
「キミは優しい暗殺者だな」
ふと、昔の馴染みある顔が浮かぶ。
馴染みというよりも、盗賊たちの恐怖で引き攣った顔の方だけども。
多くの指を失った商人からも似たものがある。
「あたしも...おんなじなのか」
「同じ? いや、違うだろうなあ」
ポーションを使えば傷はいえるけど。
「金脈の長はオークニーという。内偵は済ませてあるが...」
あたしの真後ろに太守公が。
振り返ろうとしたあたしの背を身体の芯で抑え込まれた。
聞かれたわけではないけど。
「都市の内でことなら、こちらの領分だ!!」
◆
法皇の戴冠式が迫る。
法王庁に詰める近衛兵に守られた枢機卿と、すれ違いざまに太守とその守護兵が動く。
ジジイと若造の鋭い視線が交差して、
「この暗雲を払う時が来た!!」
いざ、反政府結社に裁きを――ってなノリで軍が動く。
同行する者の中にミロムさんや、ヒルダさんにあたし、おかっぱ頭のポール君が。
「?」
やや驚きに引き攣ってると。
「ポールがあるところに、ガムストンあり!!」
魔法詠唱者協会に属する騎士らがある。
えっと、彼らも似た内容で潜入工作をしてたっぽい。
「それ?」
冑の代わりに酒瓶を提げている。
こう、丸いワイン瓶に麻縄を括りつけて、か。
大剣を担いだヒルダさん曰く「頼もしい」の一言で片づけられた。
いや、まあ。
戦場が被ることが多いらしく、ガムストンさんとヒルダさんの武勇伝もちょくちょく耳にする。
吟遊詩人に多くを語って聞かせる、ガムストンさんの方が詩的多いんだけど。
「頼りにはなるけど、嘘はよくない」
ほらきた。