正教会と、魔法詠唱者協会 2
後日、魔法詠唱者協会がクリシュナに構える、盗賊ギルドへ足を運んだ。
宿屋にしてた教会のひと部屋が、あたしの手によって豪快に吹き飛ばされたことにも関係してた。
結界内で起きた、火炎球の高圧縮爆発。
(個人的にやり過ぎた感という罪を感じなくもない...
あれはもう魔法じゃなくて、殺戮兵器だった――かつて、地表上空100メートルのあたり。直径約10メートル大の火炎球を投射し、爆発させたことがある。
その破壊力はとてつもない被害と、損害を与える地表に引き起こさせた。
あたしの頭の中で『あれ、これ...イケるんじゃね?』なんて曖昧なヴィジョンが浮かんだのだ。
と、言うととてつもなく危ない人に思えるかもしれないけど、も。
えっとね。
守護神スーリヤさまのお知恵の一端から。
零れたような滴の中に...地表を高温燃焼の風で何もかも焼き払って、薙ぎ倒して、蒸発させるものが見えたんだわ。そんな映像見せられたら、さ...なんていうの? 神様から『やって、み?』って挑戦状でも叩き付けられたように思う訳じゃん。
で、やった。
昔、魔獣の群れが近隣の開拓村を襲撃するという、厄災が発生してた。
師匠とのふたり旅での出来事だから、ずっと昔の話だ。
その魔獣というのがジャイアントビーっていう蜂の魔物。
数は数千匹以上で、3つの巣がたまたま、近いところにあったもんだから大変。
森の獲物は枯渇させちゃって、生態系は大いに狂い...で“炎の柱”は、あたしらを派遣したわけ。
壊すことが得意なあたしと、師匠だから。
「それで何もかも吹き飛ばしたと?」
裾の焦げ目を気にする修道女がある。
後輩の“紅”であるけども...こいつが無事って事は。
「悪気があると思ってるなら、爆心地に居た尋問官に回復魔法のひとつでも掛けてあげてくれても、良かったのですが?」
と、毒を吐く。
あたしが火炎球しか使えないことを知ってる癖に。
「――そうでした、姐さまは使えなかったんですね」
魔法詠唱者協会の呼び出しは至極単純な話。
宗主が会いたいと言ったから、だ。
あたしは会いたいとは思わないから、トッド君には丁重に断った。
で、彼は――
「そういう事でしたら、依頼は履行されなかったという手続きになります」
「え?!」
聞き返す事は想定済みという雰囲気で。
「協会は、セルコットさんに街の調査依頼を行いました」
「はい」
「それは...誰に報告しますか?」
あたしはトッド君を指さしてた。
で、彼は胸元で腕を交差し、
「ブッブー!!」
と、口を尖らせた。
「一緒に調査しているボクに報告して金が貰えるわけないでしょうに!」
あたしは、バカだ。
本気で傾げて、本気で悩んでた。
トッド君の呆れた吐息と共に、天井に大きな穴が開いた部屋の壁にもたれる後輩からも...ため息が。
「協会の...支部長あたりが妥当なんじゃない?」
説明を省いて貰えたと、トッド君が後輩に感謝の礼を尽くしてた。
「支部長?! いるの」
「居ませんよ、だから宗主がこっちに来ているので、会ってください」
「やだよ」
「じゃ、お金出ませんよ?」
「えー」
って問答を4巡目で折れた。
あたしが折れた。
おしっこ行きたくなったから、折れちゃったんだよ。
ま、結局...トイレの目の前で...漏れたんですけど。
しぶしぶトッド君の誘導でギルドへ。
◆
天井が吹き飛ばされた部屋へ、監察官が聖騎士を伴い現場検証している。
これらの事態を引き起こしたのは、身内であるからあたしに請求書が回ってくることは無い。
ないと思いたい。
「っ、なるほど外からの干渉に強い聖域を以てしても、内側からではひとたまりもないと...ゴリラの群れが大暴れでもしたかのような散らかりようですね」
神父は腹の底から笑ってるが、聖騎士にの方は目が細くなる。
「戦ったら...なんて考えない方がいい」
「と?」
「彼女は神々に愛されていると聞き及びます。戦闘における賽の目はつねに“6”のゾロ目、放つ火炎球に何倍ものクリティカルダメージが乗るとも言われ、常勝無敗の戦闘狂。二つ名こそ大人しめの“火炎球の魔女”と魔法使いの世界では有名らしいですが...」
神父は口元を利き手で覆い、
「戦場では“災禍の魔女”と呼ばれ、ラスボスとも」
「ら、ラスボス?!」
戦場以外では出目の悪さで、借金王とも呼ばれてると...告げる人。
また余計な噂が広まった気がする。