聖都の攻防 34 甘くない沙汰 10
秘密を隠すのならば、秘密だとバレにくい場所に隠す――木を隠したいのならば、森に隠せ――である。
さて、魔界の猟犬たちは、大芝居を打つことにした。
「芝居ですか?」
シグルドを名乗る猟犬がしかめっ面で唸る。
人物評としてのプロフィールは完璧だと自負していた。
今ならば渡された台本をそらで、すらすらと暗唱できるといった具合。
「アホか!」
スリッパで叩かれた。
それ、ヒルダさんのだ。
猟犬仲間か、いや、およそ上司っぽい感じの方。
彼女へスリッパが丁寧に返却された。
「な、なにを!」
あたしをスカウトした、シグルドが吠える。
「――親にもぶたれない者が成長など...ん?!」
いささか不穏な空気が流れ、
鼻をつまんで、皆の顔が曇る。
あたしも似た表情になってた――どゆこと?
「早すぎます。ネタの仕込みが間に合いません」
と、シグルドからの抗議。
ネタかー、なんの?
「これは古すぎる」
「もーそういって、誤魔化すから」
ローゼンの方は役作りでなく、素である。
本人がもしも市井で女を囲み――「そんな不誠実なことは、せぬ!」やや憤慨に憤ってみたけど「支給品の鎧一式すべて賭けて、尻の毛を毟り取られるまで俺は賭け抜く」と、ろくでなしの台詞が吐かれた。
これが台本要らずの犬畜生である。
「犬はないだろ、犬は...あれは優秀で」
「導師は、黙って村長に徹してください」
シグルドも、ローゼンの頭を弾き。
「なんでだ!!」
って師匠が声を荒げてた。
その新妻役をなぜか、あたしがやる。
師匠に手作りのお弁当を差し入れするとか、慣れないことをしなくちゃならない。
これで、本当に騙されてくれるのだろうか。
◆
太守領の片田舎“ビーマム”村。
人口よりも畜生の数の方が多いとされる地で、無邪気に子供たちが走り回っている、長閑な雰囲気。
小物の交易商は、行商に来たという体裁でここにある。
あっちもあっちで大変だ。
本物の村をひとつ丸ごと貸し切って。
その中身だけ入れ替えた、壮大な舞台装置。
「い、いい...て、てんきぃ~で、ですねぇー...」
小物が口を開くとぎこちない挨拶をする。
村人Aが凍り付く。
「て、て、て...」
「えっと、この村に何かようべ?」
双方、舌足らずになる。
脱字発生中だけども、取り繕う島もない。
いや、ここで村人も上がり症だとすると、普段から行商人も来ない僻地ってことになる。
不審以外の。
「主人はあがり症で申し訳ない」
龍海商会によって手配された傭兵が、見かねて代弁者となる。
ま、帰還したならば「手柄は俺の者だからな!!!」と、主張する事も織り込み済みで。
「ん、あああ。ええよ」
「この村出身の者について尋ねたいのだが、よろしいか?」
何事ってな流れで、長老と思しきジジイとババアが村の入り口に集まる。
どっちかと言うと入口じゃなく、もっとズカズカと村の中に入ってくるものとばかり思ってた。
が、意外にシャイだったという。
これは、オチ?