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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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聖都の攻防 32 甘くない沙汰 8

 龍海商会から裏の仕事を請け負う、馴染みの傭兵が主だって。

 徒党を組んで荷馬車とともに奔る。


 石畳に刻まれた荷馬車用の轍を食みながら。

 周囲まわりの様子もうかがって静かに、そっと太守城へと歩を進める。

「あ~あ、損な役回りだぜ」

 雑に伸びた顎髭を掻き。

 そのなかの一つを摘まみながら...

 傭兵のひとりがつぶやく。

「無駄口はいい、仕事さえすれば給金を弾むってんだ。こっちは言われたことにだけ、集中して...何も知りません、何も聞いてませんって事で切り抜けばいいんだよ」

 勿論、太守城の警備兵に疎まれたらの場合だ。

 対処としては、まあ。

 それでもいい。


 追及してくるか、否かは別の話。


「へいへい」

 士気の低さはいつものこと。

 この世の中に傭兵を“楽”させてくれる仕事なんてのはない。

 大体のところ、もめごとの仲裁人にされるのだ。

 今回は、まあ...きな臭さ抜群の香ばしい雰囲気が。

 商会長に会った時から香ってた。



 太守城の向い側――ランタンの明かりだけを()にかざして、丸く描く。

 これが合図。

 こっちの準備は整ったという。


 対岸の城からも同じように、灯が見えた。

「じゃ、行くか」

 荷馬車が太守城の裏手に回された。

 表の吊り橋と比較すると、華やかさはないけど堅牢さは表以上に思える。

 聖都を取り囲む城壁から見ると、館の周りに張り巡らされた城壁は一段低い。

 助走をつけて飛び込む勇気があれば、おそらくは届きそうな()にさせるくらいの高低差はあるんだけど、それは絶対にしちゃいけない。

 だって物理的に届くはずがないんだ。


 都市の外郭壁から一番近そうなところでも、半ブロックはあいている。

 感覚的には7、80メートルってとこだろうか。

 腕や足を広げて、ムササビの要領で飛べたとしても、だ。

 半ブロックの間で、上昇気流でも発生しない限り。

 この試みは地面に熱烈なキスをすることになるだろう。


「こりゃ、攻略は難儀するだろうなあ」

 が、師匠の感想だ。

 太守から偽りの身分で、衛兵に身をやつしてるから知りうる情報。

 表側から見ると、登るのも飛び降りるのも、飛行しつつ飛び込むのも無理に思える。

 故に、武人らしからぬ感想となった。

 さて、ヒルダさんに至っては「壊し甲斐がありますね」だ。

 兄妹で攻略に関するアプローチが違うのは、師事した師匠が違うからだろう。

「やあ、こっちだこっち」

 小物の商人が招かれて、次に傭兵たちとともに荷馬車が城内へ。

「少し遅かったが?」

 あらかじめ決めて置いた刻限より、少し遅くなった。

 夜の街だ。

 明らかに不審者なのだから、街の警備から逃げるように遠回りしなくてはならない。

 これが思った以上に手間取った。


 太守は、師匠らに。

『如何なる理由があろうとも、街の警備・経路に普段とは()()行動はさせられない。故に、戴冠式前夜も加味して警備の範囲、規模、経路、巡回人数は倍で臨むことになる』と、告知していた。

 その情報は、小物な商人が寝床としている娼館に伝えておいた。

 対価の金貨が欲しくて焦っている態の演出のため、師匠はわざとらしく傭兵たちに「遅かったな」なんて囁いたのだが。

 商人の方は狭い額をコツコツとはじきながら、

「事前に知っていても、不測の事態ってのは起こりうるものなんですよ」

 ややキレてた。

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