聖都の攻防 31 甘くない沙汰 7
「上手いこと言ったつもりだろうがなあ」
あたしは今、宙に浮いている。
浮遊魔法とは無関係に。
あたしは...
「セルコットさんの頭があああああ!!!」
目撃者ひとり、ミロムさんがいた。
彼女は、師匠の犯している凶行を目撃した。
尻もちをついて、こちらを驚き...いや、面白そうな笑顔でみていたり?
「なんか、お前の友達...怖いな?」
あたしも、です。
こめかみグリグリされながら、持ち上げられてるこの状況に。
ミロムさんの息遣いが、怖い。
ああ。
この子の変態スイッチ入ってる~!!!!
◇
ミロムさんの急変が収まるまで。
いや、興味が薄れるまで――あたしは宙づりにされてた。
もぞもぞっと這ってきた彼女は、給仕服のあたしの裾をめくって中を改めたり。
嗅いだり、靴を脱がして素足にしたりしてた。
「えっと、お前の友達...何してんの?」
「あたしが分かる訳ないじゃないですか!! ミロムさんですよ。あの子はちょっとネジが飛んでるっていうか、フツーじゃないんです」
そう。
ミロムさんはフツーじゃない。
エルフは総じて、耳が横に長く尖がっていると思っていた――あたしと会うまでは。
しかも、だ。
エルフは皆、裸で生活していると。
いやいや。
どこの原人ですか、それ?
「セルコットさん」
「は、はい!」
眼下から光る眼がある。
あたしからだと、スカートの真下になるから濃い影のあたり。
目が赤く光ってて、マジ、怖い。
「さあ、遠慮なくしゃーってして」
「は?」
「ほら、前に神様にしゃーしたんでしょ?」
おおっと...それ、話すんじゃなかった。
いや、師匠に頭グリグリの刑に処されてても、失禁するほど断末魔的な最後じゃないし。
あたし、死なないよ?!
「ええ、と...」
師匠に虚ろな瞳を向けた。
真下の光る眼も同時に、彼を陰湿な雰囲気で見ている。
あ、これジト目だ。
「おい、バカ弟子!! こっちに怖いもんを振るなよ。ミロムちゃんが一層、怖い目でこっち睨んでるだろ、が」
いや、それ期待してる目ですよ。
だって生殺与奪は師匠にありますもん。
彼女の期待は、宙づりの女の子が急に筋肉を弛緩させて極致に至る事。
その時に流すであろう命のシャワーでも浴びようとか...そういうもんだと思う。
で、あるとするならば。
「お前の首を俺が締めるって理屈になるんか?! イカレてるじゃねえか、それ!!」
いち抜けだと言って、師匠はあたしを放って廊下の先に消えた。
着地時に足を捻ったあたしは、床に転がる。
そこへ不服そうなミロムさんが...
「指への締め付けが良かったっぽいので、今夜はこの続きで“遊び”ましょう!」
なんて、囁いてきた。
失禁はないけど。
背中に寒気は感じた。
この子、怖いわ。
◆
小物の男の下へ、使いの従者が現れた。
娼館の裏口からこっそり書簡の受け渡しが行われ――「決行は、戴冠式の前日か。確かに太守側も多忙と見えるし妥当ではあるな。あい分かった、追加の資金も含め、都合くらいはつけてやろう」――と、話もまとまる。
結社の末端だけども、今回の計画の要である。
その龍海商会と小物の商人の逮捕は大きな一歩となるだろう。