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守銭奴エルフの冒険記  作者: さんぜん円ねこ
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聖都の攻防 30 甘くない沙汰 6

 太守が管理する宝物庫は、武器庫同様に堅牢な城のようなとこにある。

 聖都にはふたつの城がある、なんて市民は言う。

 教会・法皇が住まう宮殿と。

 太守が都市の行政を執行する館のことだ。


 人工的に引いた分水池で堀がつくられ、普段は滅多に上げない跳ね橋がある。

 文字通り、城壁の内側と市街の懸け橋となっていた。

 ふたりの禄でもない兵士は、エールを煽ったその足で職場へと戻っていく。

 千鳥足のローゼン。

 それに肩を貸すシグルド。

「こらこら真面目に歩け! 新妻が寮で待ってるぞ」

 とか。

 なんか()()()話をでっち上げ。

 見送る小物の視線が切れるのを待つ。

 なかなか切れんなあってのが、ふたりの一致した声。



 小物な商人は、ツキのない男二人を見送った後で――行きつけの娼館へ流れつく。立ち寄ったのではなく、流れ着いた。

 彼は途方もなく酒に弱かった。

 接待の為だと自らにカツを入れて、酒に飲まれたクチである。

 ふらふらと、どこをどう歩いたかの記憶も定かじゃないのに。

 帰巣本能でもあるかのように、娼館に流れ着いたとこ。


 いや、その本能を使って家に帰れよ、と。


 暖かく出迎えてくれるのは、営業トーク。

 小太りのむさ苦しいおっさんの手を取ってくれるのも、それが営業だからだ。

 だとすると、これ悲しくない?


「いらっしゃいませ...」

 虚ろな光を放つ商人は、

「いや、もう一度」


「お帰りなさいませ、旦那さま」

 うっすらと笑みをたたえる男がある。

 ちょっと気持ち悪い。

「おお、我が愛しのエリー、いやマリー、うん? アンナ...い、」


「カタリナですけど、掠っても無いんで帰ってくださいます?」

 機嫌を損ねた。

 いやあ、娼婦通いもほどほどに。

 酒飲んで青いのに、名前を間違って冷や汗が噴き出してる。

「いやいや、追い出さないで」


「帰る家くらいあるでしょ?」

 その通りだけど。

 彼の性格からすると、商売で得た利益は『将来の為だ!』と言って、よからぬものに投資している感じがする。恐らくは己の野望の為にと、本妻の実家からも、多額の借金でもしてるんだろう。

 ゆえに。

 ゆえに、家に帰ることが出来ない。

「そういう事情は、娼館ここで紐解かないでくださいね。娼館ここは“夢を得る場”です。心を濯いで、再び歩き出せるように...殿方の身も心も()()()軽くして差し上げる、そんな夢の国なんですの」


「なんか、さらっと聞き捨てならんこと言った?」


「さて、どうでしょう」

 商人は、長期滞在中の部屋へと通される。

 ここに入り浸りなのが先行投資だと、自らにも嘘をついた結果。

「いい加減、ツケ...払っていただけます?」

 借金をする人間は、どこでも借金をする。

 1時間、半日、1日、7日分と、働いて得たカネの価値が響かない者がいる。

 この男はその類の者だ。


 汗水流してようやく手にした“金貨”に最初は感激した。

 が、その体験が長続きしなくなると、カネは逃げていくのだ――寂しがり屋なのだと、成功者は良く言う。

 かもしれない。

 あたしの財布は穴が開いてるけどね。

 彼の場合は心に穴が開いてるっぽい。

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