聖都の攻防 29 甘くない沙汰 5
ふたりは賭博の上では仲がすこぶる良い。
勝てそうな時は涙をのんで、わざと手を抜き「あれは絶対に“赤”に掛けるべきだった!!!」と勝ちスジの話を賭場の奥で怒鳴りあうようにしてた。演技も超えた熱の入りようで――酒でも呑んで頭冷やしてこうぜと、酒場の主人に介抱させるスキさえ与えない捲し上げ。
こんなのを魅せられていれば、誰もが気が付く。
こいつら、とことんまでツキがねえ...と。
「親父ぃ、この指輪でカネを用立ててくれ!!!」
師匠こと“リフト・ローゼン”は、皮手袋の下にあった指からリングを抜き取って、カウンターに叩きつけていた。それは、白銀の細工はないけど質のいい指輪だ。
「お、おま...」
“シグルド”がたじろぐ。
曰くつきのと思って酒場の店主も身構えた。
「結婚指輪を!!」
「一世一代の大勝負だ!」
力が入ってるけど。
その勝負にもツキは舞い降りなかった。
いや、もともと勝利の女神にはノーセンキューと、断った戦いをしている。
「お、おまえら...バカだぜ?!」
店主が引いて、この話は終わる。
◇
さて、こんな茶番を見てた小物の小悪党。
これだー!! とか心中で叫んでた。
今こそ自分の高い能力を示す時だと、確信したのだという。
あー、それ。
怪しすぎて誰もが引いた罠なんですが、ね。
「兄さんたちが負けこんだ借金なら、俺の雇い主がキッチリ耳を揃えてチャラにしてくれるぜ」
――と。
ふたりは、やや俯瞰したとこで『お前ちゃうんかー!!!』って叫んでた。
これは心の中での叫び。
「(小物過ぎる、自分のバックを安易に悟らせやがった)...あ、はあ」
「(っ、いや。これは高度な情報せ...)な、いや。いい仕事と、いうのは?」
食いついてみた。
シグルドがそうしたように、ローゼンも。
手元のエールを飲み干して口元に髭を残し...
「俺たち、首が回らないっても...太守の兵士だからよ。給料日まで大人しくしてりゃあ」
ちらっとシグルドの顔色を窺い。
口元の泡を親指で消す素振りの中で、ハンドサイン。
――殴らせた。
「てめぇが! 大人しく給料日まで待つタマかよ!!!!!」
これは印象が強い。
早急にカネが必要だと印象付けさせられた。
「(バカか、お前は?!)俺の拳が痛いだろうが。友を殴らせるんじゃねえ!!」
小物の商人が慌ててるのが滑稽だけど。
たぶんやり過ぎ。
「て、手付金で金貨10枚ある」
支度金は50枚だったから、40枚は着服している。
けど、そんな事情は雇い主と小物にしかわからない、わけで。
「じゅ、10枚だって?!」
卓上に広げられた革袋から“白金貨”が顔を出す。
国庫に純金貨が収められていれば、この金貨は贋金だとして追及される筈だったが。
結社は一刻も早く、純金貨の回収を目論んでいる。
鋳造された金貨が市場に出回ることはないけど、再度、溶かして“白金貨”に鋳造し直せば流通量の多さから1枚当たりの銀貨相当数で目減りすることになる。
結社として、市場操作が可能になるという訳だ。
もっとも。
金貨を全部無事に回収できればの話だが。
「で、俺たちは何をすれば...いい?」