聖都の攻防 28 甘くない沙汰 4
太守直属の守備隊にアプローチを掛ける者が現れる。
これは想定内だ。
頑強な家を見れば、その侵入方法に綻びを探るもので。
それが堅牢であれば、あるほど心が滾るというか...あたしも萌えるもの。
だってそこに、攻略してくださいと言う“山”があって、それに挑みたいという“人”があるんだから...据え膳食わぬはキノコの恥!!!、食らわば皿までとか。
そんな、感じ。
「いあ、それは違ぇーと思うぜ?」
ぶらりと給仕室に立ち寄ったヒルダさんが、ポークウインナーをつまみ食いしながら呟いた。
あたしの心を読みやがった、ぬあ!!!
「いあ、だからよ。心の声が反転してんだ、おまえ」
鼻頭を弾かれた。
「痛ッ」
「今度こそ、ちゃんとやれよ」
ってのが脳裏でリピート再生されている。
今? 今はね絶賛意識が飛んでるヤバイ状況――これ、いや、えっとこの型枠からいつ出れるんですかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
◇
堅牢すぎると人は近寄りもしない。
例えば、戴冠式の前夜に催すパーティーなんかでも。
枢機卿時代は清貧ではあっても、きさくな人物が売りだった人も、権力を持つと雰囲気が変わるんですね? なんて嫌みの陰口もひとつくらいは聞こえてきそうになる。
それでは困る。
依頼人の人柄に傷がついてしまうから――警護する側はそれでも構わないんだけど、やっぱりそこはモノではなく人なのだと、実感させられる。
これから巨大な宗教国家を、明るい未来に導く指導者にならなくていけない。
暗殺が怖いから他人を遠ざける者にどうして...
人が惹きつけられるだろうか。
そんな問いが聞こえてくる。
「お兄さん方にいい仕事を持ってきたんだが?」
小太り。
頭が薄い。
笑い方が下種で、とても人には見えない......矮小なる生き物。
さんざんな印象だけど。
「いい仕事だって?」
場末の酒場でくだを巻く衛兵ふたりに、声を掛けた者がある。
「へっへっへっへっ、ああ、いい仕事だぜ。お兄さん方のことはこの数日、じっくり観察させて貰ってたけどなあ...ちょっと負けが込んで、首が回らないと? 違うかい」
賭場で豪快に負けてたのを目撃したという。
太守の衛兵たちにも、賭場好きの困ったふたりがあるなんて、吹聴させてた。
これで食いついて貰えなかったら...たぶん、師匠は憤慨して(あたしの)有り金をすべて溶かしてたと思う。
んで、あたしをスカウトした猟犬と師匠のふたりで、賭場漁りをして4日。
派手に散財したのに釣れたのが...コレ。
「(がっかりするほどでもないだろ、ローゼン)聖都支給の長剣とか小剣でカネを作ってきたが...」
太い首に大きな手を添えながら苦笑して見せる。
猟犬の方は“シグルド”と名乗ってる。
聖国の成り立ちからや、市民の子らにこれらの名が多く継承されているとの理由。
スキを作っておいた師匠もがっかりした様子で――「(俺のようなオーラには、もっと手練れがあっても良くは無いか? あんなカネも寄り付かんような...)シグルド、言ってくれるなよ。その負けがすべて俺のせいみたいに聞こえるだろ?!」
シグルドを睨む師匠。
それを睨み返す、猟犬――ふたりの中は険悪だ。