正教会と、魔法詠唱者協会 1
天蓋付き巨大鏡の天井と、巨大なベッド。
その中心で丸くなって泣いているのは、あたし。
後輩の手癖、舌癖、絶妙な技で...襞がヒリヒリに腫れるまで逝かされた。
何度、腰が重力に逆らって宙を浮き、痙攣しながら噴かされたことか。
「本日の最高到達点は、ココ! 凄い姐さま、2メートル逝きました!!!!」
あああああああ。
聞こえない、聞こえない。
あああああああ。
「もう、子供っぽい事して」
いやいや、誰が、だよ。
あたしを心まで折ろうとしてる奴に言われたくはない。
床の上の水たまりを見ながら、
「もう、可愛い声で散々、鳴いてたのを当方、ちゃんと聞いてましたよ」
この耳で、と。
◆
赤面は通り越し。
自分で触っても、何の反応...いや、ちびっとヌルヌルしてるが。
気持ちい事はぜんぶ...。
後輩に持ってかれた。
エルフという種でも年長だし。
社会人としても、年上なのに――なんだろう。
ちっとも勝てる気がしない。
部屋の空気が磯臭くなっていても自分では気が付けず。
「そんなにショックでしたか?」
と修道服姿の後輩が、昼過ぎの戸を開けた。
外から爽やかな、冬の風が入り込む。
ちょっと寒い。
「っあったり前だろ?!! あたしがお姉さんじゃ、」
「そんなこと、この部屋の中では関係ないんですよ。些細な事で...涙を浮かべないでください」
目の下が腫れていると、告げられた。
触ってみると、確かに目の周りがぷっくり膨らんでいるように思える。
ああ、悔しくて泣いてたんだっけ。
「姐さんは、学園でも、教授たちの助手を務めていた天才です。故に、箱娘...当方たちのような仕事に就くことは無かった、ただ、それだけなのです。ですからもう、泣かないでください」
後輩に抱き締められたような気がする。
暫くは後輩の胸で寝てたような――「むにゃ、オス臭い...m、うにゃ」
唐突に目が覚めて、抱き着かれてるソレを押し退けてた。
「おっと、あなた自身の記憶を基に作って差し上げたのに...随分な仕打ちじゃありませんか?」
床に落ちてるパンツを拾い上げる人影。
後輩に見えたけど、それが今なら幻覚だと分かる。
泣きつかれてただけでなく、空気の交換と見せかけて幻覚剤を投入する為だった。
幻覚剤は人によって刺激臭がある。
その匂いと痕跡を飛ばすために、窓が開けられるという。
迂闊――磯臭いのは、あたしのばかりじゃなかった。
「20年足らずで成人体になったエルフは、正教会としても例が少なすぎますしね...“紅”に嚙みつかれようとも、あなたのことがどうしても気にかかります、が」
拾い上げた、パンツの匂いを嗅いでいる様子。
たぶん殿方にドストライクなフェロモンがあるんでしょうね...嗅がれると思ってたら、ベッドの下にでも隠してたわ。くぅ、脱ぎ散らかすんじゃなかった。
「はっ、パンツく、くらい嗅がれて...心が折れるとでも!?」
「強がるな」
見透かされてる感じがする。
正教会が用意した部屋だし、訪問者が後輩だけじゃないと、冒険者ならもっと警戒すべきだった。
今も、心の底で後輩が『姐さま、当方にお任せください!』と飛び込んでくることに期待してる。
いや、何も考えずに賽の目通りに火炎球を投じればいいのだ、が。
ここは街の中だし。
「尋問官どのも悪戯が過ぎるようです...」
扉の向こうから、後輩の声が聞こえた。
これは結界のようで――『彼女は監察官さまの客でもありますし、外は協会が...』後輩の声が、くぐもって聞こえる。
まるで水の中に、頭を漬け込んでいるような雰囲気だ。
「それはまた、時間切れ...ですね」
「姐さんが外見、20歳前後にみえる...それが実年齢だとしても、当方は後輩! それが大事なのです」
と、後輩は告げる。
やや引っかかる物言いだが、嬉しい言葉だ。
ふんっ
「後輩!」
「はい、せ、姐さん!!」
「ここ吹き飛ばしてもいいか?」
部屋の外、内、更に屋外からも――バカ、吹き飛ばすな!!!!――って声が聞こえたんだけど。