聖都の攻防 25 甘くない沙汰 1
あたしたちが警護するのは、新しく決まった法皇さま。
まだ、選挙で選ばれただけだけだから。
戴冠式が終わるまでは、仮の~とか呼ばれてる。
でも、ようやく聖国としての機能が回復する時が来た。
そう。
これは待ちに待った、あたしたちのターン。
◇
少し前に戻る。
ほぼほぼ、猟犬さんたちの威圧で脅してねじ伏せた太守さん。
改心させたんじゃなくて、父親の血の気の引いた顔を見て、太守を諦めさせた。
何を?
彼の理想とする都市運営をだ。
どっちが悪にみえるか。
いやあ。
魔界の住人と仲良くよろしくやってる、あたしたちが悪に見えるでしょ。
だって...この人たち、悪魔だよ。
天上のあたしの守護神スーリヤさまも草葉の陰で...
「セルコット!」
側頭部からスリッパで殴られた。
「あだ、」
何ソレ、持ち歩いてるん?
ヒルダさんは、あたしが指さすソレを懐に仕舞い直す。
「気を抜くな、おしっこ行きたくなっても、ちっとは我慢するんだよ!!」
何よ、あたしを子ども扱いすんなよ。
行きたくなるわ...
「うわ、我に帰ったら急に」
「心の声が反転してるじゃん。...ったく」
ヒルダさんは、念話にて別の場所を警戒させてた、後輩に声を掛ける。
「あー、ごめん。セルコットのやつな、おしっこ我慢できないらしく...あ、ああ。そう、股に両腕突っ込んでもじもじ、くねくね面白い動きしてるんで、漏らすまで見てたい気分になるんだわ...あ、いや。漏らさせるのは可哀そうなんで、ひとつこっちの代わりをお願いしたいんだけど」
ヒルダさんの前で粗相するのは致し方ない。
10歩譲って同性だし、鬼火時代にも散々弄られた。
もう諦めはついてる。
が!
ここ、この時が大問題。
「大丈夫かね、この娘は?!」
心配してくれるシワ枯れた太めの声が背中に刺さる。
警護任務中に尿意とはこれ如何に。
お祖父ちゃんくらいの風貌な法皇さまに、あたしは心配された。
「あ、あ、だ、...だいじょ...」
大丈夫じゃない。
うわああああ、今、感覚でわかった。
水属性の気配が、入り口付近まで到達しかかった。
これ、危なかったと言えるのか!?
否、断じて否だ。
「う、うう...ひ、るだ...さん」
ダメみたいってのを告げようとした。
青い顔に、涙目。
緊張が走る身体で、ゆっくりと振り返ったあたしは燃えた。
文字通り、物理現象として燃えた。
火柱の中にあたしがいます。
唐突過ぎるんだよ。
再びあたしの意識パスがつながったのは、春のような心地よい気候と、放尿という解放された世界。
あーすっきりぃ~
『守護神さまに黄金水、飲ませるエルフはお前だけだぞ!!!』
助けてやったのにって言葉が続くのはお約束。
犬っぽい御使いには見覚えがある。
『ああ、王冠も碌に捧げないお前の為に、だ。スーリヤさまの慈悲深き御心で助けてやろうと...』
頭からおしっこを被った神様が、穏やかな微笑みを浮かべ。
『何事も経験は必要でしょう』
ってのが、あたしの脳幹に響いてきた。
『――神の声音をその横にも上付き、下付きでもない丸い耳で拝聴できると思うなよ!! このハーフエルフが...が、その何だ。ま、スーリヤさまの変態チックなプレイを頼みもしないのに...羞恥心もなく再現してくれたことには、一応の感謝はする。が! これは、そのあれだ!!! お前の、お前の名誉を守る為と知れ!!!!』
うわああああ、まくし立てられたんで理解が難しい。
えっと何だ。
あたしはおしっこ...もとい。
尿意に襲われて決壊寸前のダムみたいなもんだった。
ちびっと出た感はある。
で、
ここが重要だぞ。
結局漏らしたんだと思うけど、えっと――あたしの眼下に? 違うな...股の間に神様がある。
びしょ濡れの神様か。
「あ、えっと?」
冷や汗ではなく、これは脂汗だ。
とにかく非常にマズイ状況だと思うのだけど。
『これはスーリヤさまのきまぐれと、緊張を解す為のものだ。気にするな、いや...時々、神様のプレイには付き合ってもらう。ま、この度のような突然の尿意発動とは違った形にはなる、が...こちらでの話だから、いや忘れてくれ。キミにとっては突然だった――』
最後の方は聞き取れないまま、元の世界に戻された。
下着は半生乾きだけど、放尿の件は不問。
炎の中から救出されたあたしは、泣き崩れてたという。