聖都の攻防 24 陶片選挙 5
選挙15回目で、逆転した。
北方開拓移民団を率いてた枢機卿“コーツ・サックスビー”に決したのだ。
清貧で高潔で、頑固一徹の人物。
形は爺でも、心の年齢は青年のよう――なんて言葉は、地元では有名らしい。
「前の法王には良くして貰ったから選挙に出たものの、まさか...こんなに長丁場になるとは思いもしなかったよ。これならば、北方で鍬やら鋤でも握って切り株を引き抜いている方が、性に合っているのかもしれんな」
なんて笑ってたけど。
開拓団を率いる前はかなりの色白だった。
わずか数年で見違えるよう偉丈夫な爺に成長してた。
“かいわれも、三日会わざれば刮目してみよ”的なノリで――色白だった肌は、土黒く日焼けして渇きを欲しているように、ごつごつとした肌触りになってた。
これがサックスビー枢機卿の自慢すべき点なのだという。
「土はな、紳士に向き合うと応えてくれるんだよ」
って言ってたけど。
それ、真摯じゃね?
◇
一方、何かを悟ったような南方出身の若い枢機卿は、惚けた目で遠い空を眺めてた。
結社から受けた献金の恩を返すことが出来なかった。
つまり、彼らの理屈からする“裏切り者”と同義になるだろう。
「いえ、まだ手はあります!!!」
これで引き下がれない理由が、他の枢機卿たちにはある。
神輿の方にやる気が無くても。
このままでは終われない。
「暗殺すればいい」
「また、バカなことを」
「今はまだ選挙によって選出された。いわゆる仮の身分...正式に冠位に就けば、彼の死は選挙のやり直しを引き起こしてしまう。それをさせない為には、今、今が大事なのです!!!」
全会一致による陶片選挙への冒涜だが。
生き残るために、選挙開始前に行われた予備面談によって、繰り上がり当選する仕組みを利用する。
まあ、未だこんな手で“全会一致”を覆したことはない。
「愚かだ!」
若い枢機卿は顔を覆って涙する。
目頭を押さえ、
「この罰当たり者が!」
「しかし」
「仮にその凶行が実際に出来ると思うか?! 私たちは灼けたパンの上にバターを塗布するのにも、スプーンの背を使う。そもそも食事においてスプーン以外のものを見ない生活の中でどうやって刃物を用意するというのですか?!」
ま、これ方便なんだけど。
若い枢機卿は、肉料理と淡水の生牡蠣が好物である。
干し肉の塊から自前のナイフで、削ぎ落しながら食すのを是とする。
「今しがた調理場で拝借してきました」
調理場では包丁の研ぎ棒が無くなったと、小さな騒ぎが起きてた。
うん、こいつナイフを知らないのか。
「これならずぶり...と」
「痛そうだが?」
「骨と皮しかないジジイですから、コーツの腹を突き破るのになんら、力は要らんでしょうな」
薄切りにされたハムを口の中に放り込む。
2週間ぶりの肉である。
味合うという言葉も忘れて放り込んでは「消えたでござる!!」って叫んでた。
この人たちは憎めませんね。