聖都の攻防 20 陶片選挙 1
選挙が始まって、7回目。
1日に1回の選挙、1日分の休日を挟んで8日目。
排煙は黒煙となる。
白煙があがれば、あたらしい法皇の誕生となる訳だけども。
ここ最近の選挙は長引く傾向にあった。
選挙の進行を執り行う司祭長ら、委員会の皆さんも高齢化してて。
たぶん陶片の結果を見落としてたり、とか。
「んな、わけあるか...そこの頭の弱いエルフじゃあるまいし」
腕組された太守から、唐突に酷いこと言われました。
泣いてもいいですか。
いいですよね。
◇
あたしの他愛もない疑問は2度生じてた。
委員会は、採決はまだ下されていないと思い込んでた。
いや、すんなり決まると...“貴重な休日”が台無しになると考えてた。
法皇の交代は、選挙後が忙しい。
これはデキレースな一面があった。
枢機卿内で候補の人物が事前に決められ、面接が行われる。
いくつかの精神レベルや教団の思想、教義などに加えて人間性が審査されて、個人の財力も秤にかけられる。
神々に審判されるんだ。
法皇になれば教団の守護者にも“王冠”を捧げなくてはならないから。
教会として献上する“王冠”とはまた、別の奉納が必要って。
神様もがめついなあ。
「そんなバカな」
過去の陶片選挙記録から、始末書を掘り起こしてきたらしい。
「それだけの始末書があるなら...認めるべきだ。今、長引いているのも、高齢化のせいだということに――」
辛い現実を突きつけるヒルダさん。
ソファに腰かけふんぞり返る師匠は、あたしの方を見てる。
「バカ弟子、座れ」
あたしの耳には『バカ弟子、お前を吸わせろ』と。
で、ややビクビクしつつも師匠の真横に身を委ねると、汗ばんだ脇を捧げて――
「な、なんのつもりだ?!」
師匠が不機嫌そうになってた。
脇を閉じさせ、
「え、吸わないので!?」
「なんのつもりだ!!!」
これは失態だ。
吸わせろではなく、吸えか。
抵抗はある。
が、師匠がいうのなら...
「まてまて、おい、そこの木偶!!」
「俺か?」
猟犬さんが応じてた。
かつて師匠の似姿で現れた兵士。
「セルコットが暴走している! ちょ、この痴女を引き離せ」
えー、痴女ぉー
◆
結社“金脈”でも、ウイグスリー商会と聖都太守の密会は知るところとなる。
その場に彼らが警戒する“猟犬”が、現れたことまでは知る由もない。
ただ、予感のようなものが青年マディヤ・ラジコートにはあった。
「一挙手、一挙動...見張っているのは、同じという事か」
「どうしたんです? 唐突に」
テラスの茶会。
仕上げが近いとして、オークニー商会が細やかな催し物を開いてた。
これほどの大商会となると、招待客の接待に負われて何かと不備は生じるようになる。
「いや、こちらからでも2、3気になる不審者が見えたな...とね」
深々とフードを被り肩から下を覆う外套の影。
草影を利用する者もあるようだし、木陰に潜む者も。
「それなら、俺が」
和装の男が立ち上がりかけ、
「いや、そのままでいい。あいつらだって分かってるのさ。いくら手足を切り落としたところで、組織“金脈”のすべてを炙り出さなければ、始末の完了には成らないという事を...」
この茶会は“猟犬”にしても偵察に過ぎない。
まあ、本命は――。