聖都の攻防 18 父と息子 4
「猟犬と言ったか?」
あたしの奇声、仲間あるいは恋人、同志とも呼べる彼女らを含めて――まるで何も無かったようにふるまってる。いや、太守もそのひとりというか...あ、彼は立場が違うか。
「ああ、言ったな」
「どこの犬か、教えてもらえるか」
この場合は聞いてどうするってノリになる。
ドーセット帝国よりも強大な国家はいくらでもあるし。
そうした大国の密命を受けてる可能性も...
「言っても構わないが、キミらが理解できるかは――」
何語、めいた発音で耳の奥へ流れていった。
まるで記憶に残らない感じだ。
あたしが理解できないだけかと思ったけど。
「ふむ、まあ...似た反応だな」
ずっと頭を撫でる兵がある。
彼は、失神にちかい部屋の住人を見渡してた。
あたしが気絶していないのは、ふたりとも理解している。
「ほらな、こいつは高い耐性持ちだ」
「師匠らが欲しがるのも理解する」
目を白黒させるあたしの頭を、およそ遠くに居たはずの兵まで寄ってきて、ふたりが撫でてきた。
こらこら子ども扱い...
声が出ない。
「当てられたんだ、その症状は一時的なものですぐに回復する。まあ、キミの特性によって...だが」
確かに、痺れた声帯が戻ったのはすぐだった。
◇
ただ、うん。
ただ、みんなが戻らない――失神してから10分程度。
「ま、現地の言語で脳幹を揺さぶったわけだからな、早々に回復されてはこちらの楽しみが減るというものだ!」
金脈から投入された傭兵ふたりも白目で失神、泡を吹くという有様。
「こっちは“敵”だからな容赦してないだけだ」
太守と翁、あたしたちにはオブラートに包んだような、配慮がなされたという。
「えっと」
「我らは魔界からの使いだ。あちらもこちらと同じで多くの支配者があって、ひと括りに誰の部下であるかは今の段階では、語ることはできない...まあ、君が同志になると承諾してくれるのならば、まあ...別なのだがね」
ふむふむ。
頭、撫でないで――両手で鬱陶しく払いのけてみた。
あ、遊ばれてる。
払いのけても、叩き倒しても撫でられた。
もういいか...
胸を弄られてないだけ。
「で、魔界の猟犬さんが何で...こっち側の手助けを?」
「...そうだな、成り行きか。こういう理由であるという明確なものはない。結果論的に、君たちの世界に貢献してしまった感は...あるんだよ。ただ、見込がある戦士や魔法使いなどの冒険者の枠から頭一つ抜けた者たちには、結社よりも先に声を掛けるようにしている。勿論、すべての才多き見込みのある勇者が、賛同してくれるとは限らない」
なるほど。
冒険者から勇者や英雄は生まれない。
彼らも根っこは傭兵と大差ないから、ね...守銭奴だし。
「やはり給金の方が気になるかな?」
どこで、そんな話を聞きつけました?
って聞き返したい。
「いやな、そこのメイド服の少女から君のリサーチをした。女神正教会の信者もどきの子には、体よく追い払われてしまったがね...王冠さえ与えれば、餌付けに成功すると言われたのだが? どうだろうか、給金として王冠5枚に金貨10枚が基本給で」
鼻血でそう。
まって、まてまて。
え? いいの?! それ。
「王冠は製造可能なもんだしな。こっちの方が、これで喜ぶ君を理解したくて仕方ないくらいだ」