聖都の攻防 17 父と息子 3
「人々には自分たちでリスクを背負いながらも、自分たちの足で立つ資格がある。ま、俺とて親父殿の考えに納得が出来ずに飛び出して...自由意志さながらにこの道を選んだ。民の生活を守るなんてのは、為政者としての建前で、実のところ己の正義に、いあ。親父殿の正義に勝ってみたいと思ってたに過ぎない!!! まあ、結果がこれではスケープゴートを作っただけで......何もしていないのと同義だろうが、な」
太守は突っ伏したままだ。
彼の後方にある衛兵は、私兵というわけでもなさそうで。
兵士に扮している者たちの尋問を受けてた。
「して、庁舎にあった警備の者たちだが?」
やや上体を起こして、
あたしの方に太守の視線がささる。
窓際に寄ってたあたしが...
ちょうどそこにあったっぽい。
「このふたりの心配は?」
「いや、いい。結社の送り込んできた兵だ。冒険者を凌ぐという触れ込みだったが、同業者を相手にしり込みするようではハナからアテにも出来ないだろう? 煮るなり焼くなり好きにすればよかろう」
ってのは、太守本人の処遇も含まれる。
スケープゴートにされた恨みが帰ってくるもんだと思ってたっぽい。
「その必要もないだろう」
尋問してた兵が告げた。
結社“金脈”の子飼いの兵であることは割れた。
が、詳しい内部情報は持ってなかったようだ。
まあ、正しくは。
太守の監視と警護は正当で、悪事が暴露されても手出し不要だったという。
◇
太守の眼下に簀巻きにされた兵が転がってる。
太守護衛のふたりだ。
まあ、こうもあっさりと。
「――先にも言ったが、庁舎の兵は寝かしつけてある。このフロアに至るまでのところには、同志が見張りとして立っているので異変があれば、この場にある協力者...勿論、太守閣下も同様に逃がす手はずも整えてあるが、これは必要ないだろう」
「なぜだ!?」
冷静に燃える炎のような声音。
太守は罪を犯したと思っている。
「1つ、貴殿らが狙った村はもともと廃墟だ。いや、かつては活気のある地で我々との交流もあったが、こちらの都合で引っ越ししてもらった。故に、あれは...軍事拠点みたいなものだ」
気にするなという意味らしい。
いや、軍事拠点って...
「2つ、赤帽なる結社は存在しない。...っ、隠すつもりは無かったのだが、適当な組織名がなく目についたフレーズをその場しのぎで創作したに過ぎないのだ。だから、我らをスケープゴートにしたという負い目を背負わなくていい」
おお、これは衝撃発言。
あたしの頭を撫でてくる兵士は咳払いしてたけど、上司は太守側の兵士のようだ。
「3つ、我らは猟犬...。ま、結社専属の...なんてつくんだが」
これは苦笑してた。
何がツボッたのか分からないけど。
どうも、本人たちにはウケる内容だったっぽい。
あたしが難しい表情だったらしく。
「深くは考えるな、わが師匠もその方面でのキミには期待していないからな」
と、告げられて――気が付く鈍感さ。
ああ!!!
「どうしたバカ弟子!?」
「なに、何が!!」
「セルコットさん」
「先輩、漏らしたか?!」
って奇声を挙げたあたしへの反応集。
ちょっと酷くないですか?!