聖都の攻防 16 父と息子 2
「だ、だれか!!」
時代劇よろしく、こう『であえーであえー』って叫んでる悪代官があって。
見切れた画面のあちこちから、ゾロゾロと病没必至のお役人さん方が飛び込んでくる。
そうして勇ましい、ぶらり暴れん棒サムライなる主人公に、三枚おろしされていくわけだ。
「おい、お前たち」
呼んでも来ないから、警護に置いてたふたりに声を掛けた。
が、ぴくりとも動かない。
いや、動けないと言い換えよう――窓枠の衛兵似のそれは既視感。
うっわー師匠だー!!
「俺はここにいるが」
あたしの横に師匠がいた。
いや、あんたじゃない方です。
「俺じゃない、俺とはどういう...」
食い気味の師匠を他所に、
えっと、あたしは...そう、あたしは師匠似の中身の方に恋をしてた。
いや、ちがった。
「そんなにぐいぐい来ても、お嬢さんのトコに出向いた奴は今、別の任務についてる」
おっと。
そ、そうなんですか。
ちょっと残念な感じ。
うえ?!
惑枠の君、何で...心の声を。
「いや、本音が漏れてるぜ。お嬢さん...ヨダレみたいに」
◇
ふたりの衛兵は、衛兵似の侵入者に金縛りめいた技で封じられてた。
いや、ひとりは寝てるようだが。
「こいつは寝かしつけた。目力の強い野郎ふたりから、睨まれるのは性分でもない。ま、ひとりを起こしておいたのは、、こいつに用事があるからなんだが」
と、窓枠の君こと。
赤帽の方々があたしの脇に立つ人、太守の方へと歩み出る者とに分かれた。
「お初にお目にかかります。我らは..」
「分かっているさ、親父殿が口の葉に出していた“赤帽”という結社だろう?! 隠れ郷のあたりはついている、今頃は...」
やや寂しそうな。
いや、冷めた眼差しのようにも見え。
「良く調べもしないで...」
衛兵を縛り付けている目が、太守にも向く。
が、あたしの隣にある兵が諫める声を上げてた「やめろ、よせ」と。
太守は一般人である。
あたしたちのように身体能力を極限まで鍛えた者じゃあない。
「その力では、彼が死ぬ!!!」
思わず声を出して叫んだの、あたしだった。
師匠の手と、師匠似にみえた兵の手があたしの頭と肩にかかる。
おっと、ふたりの視線も交差して――なんだろう、所有権問題でも勃発しましたか?!――バチバチの火花散ってる気がする。
「おっと、冷静を欠いたか」
視線を閉じた。
「太守閣下。今はその場凌ぎでしかありません!! すでにこの結社は、コンバートル王国を内戦という崩壊に導いたのです。その場にあった、あたしたちでも止められませんでした。...結社らの描いていた絵が、見えていなかったからです!」
じゃあ、今なら見えるのかというと...首を振らざる得ない。
何をしようとしているかは分かる。
今ある“秩序”の崩壊。
つまり混乱なのだろう。
武力の象徴だった、コンバートル王国が倒れた後は、経済と心の平穏である宗教国家の崩壊を望む。
この大陸に棲む人々をどうしたいのか。
「決まっている、支配しやすいように舵を切るだけだ」
卓上に伏してた太守が呟く。
「結社の目的は、彼らの導く教義によって、人々の自由意志を奪う秩序で縛ることだ」